【61話】なんとも重苦しい昼食の席
施設内の売店が立ち並ぶコーナー。
そこに設けられたテーブル席に、三人は腰を下ろしていた。
三人の前には、それぞれ売店で購入してきた昼食が置かれている。
しかし、誰も手をつける様子はない。
この場に張りつめているのは、ピリピリした空気。
半端ではない緊張感が展開されている。
「……」
「……」
俺も瑠奈ちゃんも、そんな状況で食事をできるほど図太い神経を持ち合わせてはいない。
顔を強張らせながら時々視線を交わし合い、この空気を出している陽菜の出方を伺っていた。
しかし陽菜は、だんまりを決めこんでいる。
対面に座る俺たちをじっと見つめたままだ。
俺か瑠奈ちゃん、どちらかが喋り出すのを待っている。
瑠奈ちゃんがその役目を果たすのは難しいだろう。
そうなるともう、方法は一つ。俺がやるしかない。
プールに来た経緯を説明し、ロリコン疑惑を晴らす。
それが俺のやること。
でもその前に、だ。
まずはこの空気をどうにかしないと。
プレッシャーで瑠奈ちゃんが死んじまいそうだからな。
「お前の水着、あのときと同じやつだな」
「えぇ。ネット通販にならあったのよ。私の胸にも合うような小さいサイズがね」
嫌味っぽく言ってきた陽菜は最後に、フン、と鼻を鳴らした。
あのとき俺が店で言ったこと(実際には思っただけで、口に出してはいないのだが)を、まだ根に持っているらしい
「良いな、その水着。よく似合ってる」
「本当にそう思ってる? 私のご機嫌を取りたくて、テキトーなことを言ってるだけじゃないの?」
「そんなことはない」
空気を変えたいという思惑はあるものの、発言自体は本物だ。
純白のビキニは透明感のある印象を与え、陽菜の魅力をより際立たせている。
早い話が、いつにも増してかわいい。
「そ、そう……信じてあげる」
陽菜は少し恥ずかしそうに、視線を下へ向けた。
張りつめていた空気が和らいでいくのを感じる。
よしよし、イイ感じだぞ。
最高の滑り出しを切れた俺は、自分の腕にガッチリとしがみついている瑠奈ちゃんを見た。
いよいよ本題に入っていく。
「紹介がまだだったよな。この子は優月瑠奈ちゃん。舞のクラスメイトで、親友だ。今日は元々舞を入れた三人で、ここへ来る予定だったんだ。でもあいつ、急用が入っちゃってさ。二人でいるのはそういう訳なんだ」
「ふーん、舞ちゃんのお友達……ねぇ。それにしてはあなたたち、ずいぶんと仲が良いようだけど?」
陽菜のまぶたがピクリと動く。
疑いの眼差しが向かう先は、小刻みに震えている瑠奈ちゃんだ。
「瑠奈ちゃんは人見知りなんだ。あんまりいじめるな」
「別に、いじめてなんかいないわよ!」
「だったらその顔をやめろ。怖がってるだろ」
「……分かったわよ」
頬杖をついた陽菜は、ツンと唇を尖らせる。
まだ不機嫌なようだが、それでも先ほどよりは少しだけマシになった。
「ほら、陽菜。お前も自己紹介をしたらどうだ?」
「……それもそうね。私は、結城陽菜。正樹とは小学生の頃からの付き合いよ。いわゆる幼馴染ってやつね」
「腐れ縁、とも言うけどな」
「なによその言い方は! 一言多いのよ!」
「そういうお前は少なすぎるぞ。ほら、まだ言い忘れていることがあるだろ? 私はレースゲームがド下手です、って」
「あんたね……!」
遠慮のないやり取りは小学生の頃を思い出す。
久しぶりでついつい楽しくなってきてしまうが、やりすぎは禁物。
これ以上は陽菜がマジギレしてしまう。
こういうのは、ラインを見極めなければならない。
ほどほどが肝心なのだ。
軽口を叩き合う二人を見やる瑠奈ちゃんは、そわそわしていた。
落ち着きのない視線は、陽菜の顔を行ったり来たりしている。
「どうしたの? 私の顔になにかついているのかしら?」
「違うんです。その……ものすごく綺麗な人だな、って。こんなに整った顔立ちの人、私初めて見ました」
瑠奈ちゃんは純粋でまっすぐだ。
その言葉が本心でありったけの感情が込められていることは、誰の目から見ても明らかだった。
陽菜もそれを分かっているのだろう。
恥ずかしそうに頬を赤らめている。
普段から褒められまくっているであろう陽菜でも、心からの強い気持ちをまっすぐにぶつけられては動揺してしまうらしい。




