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【59話】見覚えのある集団


「どゅっ! どどどどど、どうしたの!?」

「ごめんなさい! 急に人の密度が上がったものですから、つい……。うぅ……!」


 俺にしがみついている瑠奈ちゃんは、ギュッと目をつぶった。

 肩はガクガクと震え、今にも泣き出してしまいそうでいる。


 ここは俺がしっかりしなきゃだよな。

 パニックになっている場合じゃないぞ!

 

 他に頼れる人間はいない。

 ならば、俺がやるしかない。

 

 怯えている瑠奈ちゃんの姿を目にしたことで、逆に冷静さを取り戻すことができた。

 

「すぐに離れますから!」

「無理しなくていいよ。好きなだけこうしていていいからね」

 

 周囲の視線が気になるし、ずっと抱きついたままというのは勘弁してほしいところだ。

 だが今は、これでいい。

 

 ともかくまずは、瑠奈ちゃんを落ち着かせる。

 なによりもそれが最優先だ。

 

「やっぱりお兄さんは、優しい人ですね……!」


 あんなにも怯えていた瑠奈ちゃんの表情が、ぱあっと明るくなる。

 まっすぐに俺を見つめるその瞳には、キラキラと光が灯っていた。

 

 俺はそんな立派な人間じゃない!

 そんな目で見ないでくれ!

 

 最優先事項を達成できたのは良かったが、生まれつきの卑屈さゆえに居たたまれない気持ちになってしまう。

 こういうとき素直に喜べるような人間が羨ましいよ、ほんと。



 流れるプールに入ってから、しばらく。

 

 瑠奈ちゃんの体の震えは、すっかり収まっていた。

 表情もあれからずっと、明るいままでいる。

 

 そうしたことが影響してか、瑠奈ちゃんは俺に抱き着くことをやめていた。

 とはいえ、手は繋いだままでいるのだけど。

 

 女の子とずっと手を繋いだままというのは、結構恥ずかしい。

 正直に言うと、離してしまいたい気持ちもある。

 

 でもだぶんこれは、必要なことだ。

 瑠奈ちゃんにはまだ、恐怖心が残っているだろうからな。

 

 さきほどの怯えようは尋常じゃなかった。

 いっけん明るく見えるが、あれだけの恐怖心を完全に消し去るのは難しいはず。

 こうしていつまでも俺と手を繋いでいるのが、その証拠だ。

 

 だから俺は、小さなこの手を離さない。

 込み上げてくる恥ずかしさよりも、瑠奈ちゃんを安心させることの方がずっと大事だ。

 

「そろそろご飯にしようか」


 時刻は正午すぎ。

 昼食にはちょうどいい時間なので、俺たちはプールサイドに上がった。

 

 手を繋いだまま、売店へ向けて歩いていく。

 

「うん? あいつらって……」


 少し離れたところにいる、若者の集団。

 そのうちの何人かに、俺は見覚えがあった。

 

 一年三組のクラスメイト――もっと詳しく言えば、陽菜が所属しているカーストトップグループのメンバーだ。

 仲良しグループでプールへやって来た、とそんなところだろう。

 

 ってことはもしかして、陽菜もいるのか?


 集団へ向けて、じっと目を凝らしてみる。

 しかし、あいつの姿は見当たらなかった。

 

 ……あぶねぇ。

 

 女子中学生と手を繋いでいるところなんて見られたら、ロリコンと勘違いされてしまうかもしれない。

 せっかく関係を修復できたというのに、また距離を開けられるなんて展開は勘弁だった。

 

「あいつがいなくてよかった」

「それって誰のことを言っているのかしら?」


 聞き覚えるのある今一番聞きたくなかった声。

 真後ろから聞こえてきたのは、そんなもの。

 

 まさか……!

 

 ゾッとしながら振り向いてみれば、あぁ、なんてことだ。

 そこに立っていたのは、このタイミングで会うことだけは避けたかった幼馴染――陽菜だった。

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