【53話】邪魔者は消えます
「俺は部屋に戻るよ。それじゃ瑠奈ちゃん、ゆっくりしていってね」
「えー、行っちゃうんですか?」
リビングから出て行こうとした俺を、舞が止めてきた。
「あ! 私たちこれから夏休みの宿題をやるんですけど、お兄ちゃんも一緒にやりましょうよ。こういうのは早くから手をつけた方が、後でらくちんですよ!」
「それはそうだけど……いいよ俺は。邪魔したら悪いし」
舞は構わないかもしれないが、瑠奈ちゃんはそうもいかないだろう。
冗談を言い合える仲とはいっても、遠慮のいらない親友同士って訳じゃない。
俺がここにいたら、気を遣わせてしまうに決まってる。
せっかく来てくれたのに、それはかわいそうだ。
二人と勉強するのが嫌とかそういうことではないのだが、この場において俺は邪魔者でしかなかった。
舞には悪いが断らせてもらう。
「邪魔だなんて、そんなことないですよ。るーちゃんもそう思いますよね?」
「はい。お兄さんがいてくれると、私その……嬉しい、です」
瑠奈ちゃんはおそるおそるといった感じで、俺を見上げてくる。
上目遣いの瞳はうるうるしていて、断ったらそのまま泣いてしまうんじゃないかと思うくらいだ。
「……やっぱり俺も一緒にやろうかな」
女子中学生を泣かせる訳にはいかない。
しかも舞の親友となれば、なおさらだ。
本当にいいのだろうか、という気持ちはありつつも、俺はこう言うしかなかった。
「ありがとうございます……!」
「いいよいいよ、気にしないで。それじゃあ俺は、宿題を取ってくるから」
安心した瑠奈ちゃんにそう言って、俺は私室へ行こうとする。
しかし、ドアノブに手をかける直前。
舞が俺の前に回り込んできた。
通せんぼされてしまう。
「舞とるーちゃんでは、ずいぶん態度が違います!」
身を乗り出した舞は、ぷくっと頬を膨らませる。
俺の意見がコロッと変わったのが、そうとうにご不満らしい。
って言ってもなぁ……。
けれども瑠奈ちゃんがいるこの場で、理由なんて言えるはずもなかった。
「まぁまぁ。そう拗ねるなって」
ごまかすように舞の頭をポンポンと撫でて、俺はリビングを出た。
******
ピカッ! ゴロロロロロ!!
真っ黒な雲に覆われた空を、激しい雷が走る。
リビングの食卓テーブルで勉強をしている三人は、いっせいに窓の外を見た。
外は土砂降りだ。
さっきまで晴れていたとういうのに、急にこうなってしまった。
「瑠奈ちゃん。雨が弱まるまでここにいるといいよ」
時刻は、午後六時。
いつもであればそろそろ、瑠奈ちゃんが帰る時間だ。
しかし今外に出れば、すぐに全身びしょ濡れになることは確実。
こんな中を帰らせる訳にはいかない。
しかも雨だけでなく風も強いから、なおさらだ。
外が落ち着くまでは、ここにいた方がいい。
「ありがとうございます」
「ですがこの雨、夜遅くまで続くみたいですよ」
これを見てください、と言った舞は、二人にスマホを向ける。
画面には天気予報が表示されていて、そこには言葉通りの内容が書かれていた。
「……どうしよう」
「それなら家に泊まっていったらどうでしょう!」
困り顔で今にも泣き出しそうな瑠奈ちゃんに、舞は明るい声で提案した。
「いいの? 嬉しいけど……急にそんなことしたら迷惑にならない?」
瑠奈ちゃんはまず舞を見て、それから少しバツが悪そうに俺のことも見た。
泊まりの許可を求めている。
「そんなことないよ」
迷うことなく答えた俺は、小さな笑みを口元に浮かべる。
「こんな大雨の中、外に出ていくなんて危険だからね。瑠奈ちゃんのご両親がいいって言うなら、俺は大歓迎だ」
瑠奈ちゃんの安全を考えるなら、このまま泊まっていくのがきっと一番いい。
それにそうなれば、舞も喜ぶ。
反対する理由なんて、俺にはどこにもなかった。
「舞もですよ! るーちゃんとお泊まりしたいです!」
「お兄さん、舞ちゃん。二人ともありがとう!」
深くお辞儀をした瑠奈ちゃんは、さっそくご両親に連絡。
大して時間もかかることなく、すんなりとお泊まりの許可は下りた。




