【50話】映画館へ
映画館に着いた三人は、劇場内へ入る。
席は横並びだ。
俺を挟むような形で、雨宮さんと鷹城さんが両隣に座っている。
「おいしー! 映画館といったら、やっぱりこれだよね!」
ポップコーン、ホットドッグ、からあげ。
雨宮さんは映画館の売店で購入した大量の食べ物を、おいしそうに頬張っている。
驚異的な食欲は、ここでも健在だった。
さすがは人類の神秘。期待を裏切らない。
それとは対照的に、鷹城さんは手ぶらでいる。
食べ物はまだしも、飲み物すら買わなかった。
映画の間、喉渇かないのかな?
売店で買ったコーラを一口飲んだ俺は、鷹城さんの方へ顔を向ける。
「飲み物なくて本当に平気?」
「あぁ、問題ねえ。映画を見るときはいつもこうしてるんだ。スクリーンだけに集中したいからな」
「そうそう。夏凛ちゃんはね、昔からこのスタイルなんだよ」
なぜか得意気に解説してきた雨宮さんは、言い終わるなりすぐにホットドッグにかぶりついた。
劇場内に入ってからというもの、食事の手がいっさい止まらない。
きっと雨宮さんの方も、昔からこういうスタイルなんだろうな……。
「そういえば二人は、友達になってから長いの?」
「うん! 小五のときに夏凛ちゃんが引っ越してきてそこからだから、もう五年くらいになるね」
俺の家に泊まるアリバイ工作に鷹城さんを使うあたり、二人の付き合いはそれなりだと予想していたが、なるほど。
思っていた通り、長い付き合いだった。
「でも夏凛ちゃんって、ずいぶん見た目変わったよね。昔はもっと地味な感じだったのに」
「おい乃亜! マサがいる前でそんなこと言うな!」
「えー、なんで?」
「そ、それはお前……」
「照れちゃってかわいー。あはは」
バツが悪そうにしている鷹城さんへ向け、雨宮さんが楽し気な笑い声を上げた。
それが合図だったかのように、劇場内の照明が落ちる。
三人はお喋りをやめ、前方の巨大スクリーンへ顔を向けた。
ついに始まるぞ!
これからの120分に、わくわくが止まらない。
期待に胸をときめかせながら、俺はスクリーンを見つめた。
******
「もうなんていうかさ……全部がすごすぎたよね。最高――それ以外の言葉が、俺には見つからないよ」
「分かるっ!! 私もさっきからずっと涙が止まらないもん!」
先ほど見終えた映画の感想を熱く語る、俺と雨宮さん。
その場所となっているのは、ファミレスのテーブル席だ。
映画館を出た俺たち三人は、昼食を食べに近くのファミレスへやって来た。
出てくる話題は当然、今一番ホットなもの――先ほどの映画についてのことだった。
本当に最高の映画だった。
感動の涙をズビズビと流している雨宮さんの向かいでは、俺も同じく涙を流している。
しかしただ一人、俺の隣の席に座っている鷹城さんは泣いていない。
面白かった、とは言ってくれてはいるが、それだけだ。
俺と雨宮さんの会話にも入ってこようとしない。
まだ元気がないのは、疑いようもないくらいに明らかだった。
あの最高の映画を見ても、元気にならないとは。
失恋によって受けたダメージは、相当に深いらしい。
でも、だからどうしたっていうんだ!
テーブルの下で、俺はグッと拳を握る。
鷹城さんの元気を取り戻す。
俺はそう決めた。
たとえそれがどんなに難しいことだとしても、絶対に諦めりたりしない。
必ず目的を果たしてみせる。
強い気持ちを秘めた誓いを胸に立てる。
しかし、その矢先。
「そういえばだけどさ。夏凛ちゃん、斗真とはどうなったの?」
雨宮さんがとんでもないことをぶっこんできた。
ぎゃああああああ!
なんてこと聞くんだよ!!
雨宮さんの行為は、鷹城さんの傷を抉るようなもの。
そんなことをしたらただでさえ元気がない鷹城さんが、さらに落ち込んでしまうではないか。
こんなの最悪だぞ!
あんまりな事態に俺は頭を抱えるが、鷹城さん本人は動じていない。
意外すぎるくらいに落ち着いていた。
「あれ? 私、乃亜にそのこと話してないよな? ……あぁ、そうか。マサに聞いたのか」
「ううん。夏凛ちゃんが斗真をデートに誘っているところをさ、たまたま見ちゃったんだよね」
「そっか。まさか乃亜に見られてたとはな。まぁその、なんだ……振られたよ。デートのときに告白したんだけどさ、ダメだったんだ」
未だに引きずっているはずの出来事なのに、鷹城さんはためらうことなくあっさりと言ってみせた。
しかも、自嘲の笑みまで浮かべているではないか。
剣崎とのことは過去。もう吹っ切れている。
鷹城さんの言葉と態度からは、そんなことが読み取れた。
もしかして元気がない原因は、失恋じゃないのか?
でもそれなら、いったいなにが……。
ブーブーブー!
意外な展開に戸惑っていると、スマホに電話がかかってきた。
舞からだ。
なんてタイミングだよ!
大事な場面なのに!
しかしながら、かわいい妹からの電話を無視するなんて俺にはできない。
それに、緊急を要するような一大事が起こったという可能性だってある。
今ここを離れたくない気持ちはやまやまだが、電話に出ないという選択肢は無かった。
「ごめん。電話がかかってきちゃったから、ちょっと席外すね」
席を立った俺は二人へ、胸の前で両手を合わせて『ごめん』のポーズ。
それをするなり、小走りで店の外へ出ていった。




