【47話】お待ちかねの日がやってきた
一学期最終日の、今日。
終業式を終え昼前に下校した俺は、雨宮さんと一緒にファミレスに来ていた。
「ついにこの日が来たね、村瀬くん……!」
「うん……!」
デーブルで向かい合う二人は、互いに喜びの笑みを浮かべている。
明日から夏休みに入るから嬉しい! 、ということもあるのだが、それではない。
もっと大きなことがある。
二人はせーので息を合わせて、
「「『転生したら最弱魔法使いでした』の劇場版!」」
笑みの理由を口にした。
明日は俺が大好きなアニメ――『転生したら最弱魔法使いでした』の、劇場版の公開日。
同じくこのアニメのファンである雨宮さんと一緒に、明日は映画館へ行くことになっている。
俺はこの日が来るのを、どれだけ心待ちにしていたことか。
映画を見るのが、今から楽しみで仕方ない。
そしてそれは、雨宮さんも同じだ。
テンションがかなり上がっている。
声色とか雰囲気もそうなのだが、食事の量にもそれが表れていた。
うな重、から揚げ、ハンバーグ、ドリア、ピザ……などなど。
テーブルの上は雨宮さんが頼んだ料理で、いっぱいに埋め尽くされている。
雨宮さんの食事量が多いのはいつものことだが、今日は輪をかけて多かった。
「そうだ。明日のことなんだけどさ、鷹城さんも誘っていいかな?」
「夏凛ちゃんを? なんで?」
「雨宮さんにはまだ言ってなかったけど、実は鷹城さんも『転生したら最弱魔法使いでした』が好きなんだよ。前に俺の家で漫画を見せたら、面白いって言ってくれたんだ」
「……うーん」
しかし雨宮さんは、頷いてくれない。
難しい顔をして悩んでいる。
陽菜とは違い、鷹城さんとは仲がいいはず。
てっきり即答でオッケーを貰えると思っていたのだが、なにを悩んでいるのだろう。
「まぁ、夏凛ちゃんならいっか」
……引っかかる言い方だな。
許可は下りたものの、スッキリしないその言い方が俺は少し気になった。
「なにか引っかかるところでもあるの?」
「それはね……ふふふ」
楽しそうに身を乗り出した雨宮さんが、俺の鼻の先を指でつんとつついた。
「教えてあげないよー」
「……気になるなぁ」
「ではキミに、チャンスをあげよう。このテーブルに乗っている料理を、村瀬くん一人でぜーんぶ食べてみて。そうしたら教えてあげる!」
「…………やっぱりいいです」
胃袋ブラックホールな雨宮さんとは違い、俺はただの凡人。
挑戦する前から確実に無理だと分かる。
気にはなるものの、潔く諦めるしかなかった。
雨宮さんとの食事を終えて自宅に帰ってきた俺は、私室の机に腰を下ろした。
スマホを取り出し、さっそく鷹城さんに連絡を取ろうとする。
しかしここで、問題発生。
「……友達を誘うときって、どうやるんだ?」
思えば俺はこれまで、友達を誘ったことが一度もない。
誰かと会うときにはいつも、相手の方がアクションを取ってくれていた。
俺は常に受け身だったのだ。
しかし今回は、そういう訳にはいかない。
こっちからアクションを取る必要がある。
でもそのやり方が、俺には分からないでいた。
『明日って暇? 暇なら映画に行こうぜ!』
うーん、これは軽すぎるか。
なんか俺のキャラとも違う気がするし、もう少し丁寧な方がいいよな。
『夏の盛りとなりましたが、さて、貴殿におかれましては……』
……いや、さすがにこれはないだろ。
時候の挨拶から入られても、相手を困らせるだけに決まってる。アホか俺は。
しかし、まいったなこれは。
まったく思いつかないぞ。
軽すぎても駄目だし、かといって重すぎても駄目。
だったらどうすればいいんだろうか。
頭を悩ませるが、まったくもっていい案が湧いてこない。
世の中の人間は普通にこれをやっているというのだから、結構すごいことだと思う。
「いっそのこと雨宮さんから連絡してもらうっていうのも――いや、それはダメだろ」
きっとそうした方が、スムーズに事は運ぶだろう。
しかし、あまりにも情けなさすぎる。
男としてのプライドが、それは許さない。
それに、だ。
鷹城さんを誘おうと言い出したのは、他でもないこの俺。
言い出したからには、最後までやり遂げる責任がある。
「……やるぞ」
覚悟を決めた俺は、トインを起動。
鷹城さんに電話をかける。
誘うための言葉は結局思いつけないでいるが、そこはもうアドリブでいくしかない。
出たとこ勝負。
なるようになれ、の精神だ。




