【44話】あの日のリベンジ
笑みを浮かべる俺を見る陽菜は、怪訝そうな顔をしていた。
「……なに笑ってるのよ?」
「別に大したことじゃない。気にすんな」
「いいから言いなさいよ。そんな風に言われたら、逆に気になるじゃないの」
「嫌だね。正直に言ったらお前、怒ってきそうな気がするし」
「はぁ? なによそれ――え、あれって……! すごい! 信じられないわ!!」
陽菜は手に持っていたお金を財布へ戻すと、ひょいと筐体から降りた。
ワクワクしながら、店の奥へとぐんぐん進んで行ってしまう。
急にどうしたんだ?
……いや、ここで考えても仕方ないか。
「待てって!」
一人取り残される訳にもいかないので、俺も急いで後を追った。
陽菜が向かった先は、クレーンゲームのコーナーだった。
数多くの筐体が立ち並んでいる。
お菓子、フィギュア、アニメのキャラクターグッズ……などなど。
ゲームの景品となっているのは、そういった様々なモノだった。
筐体の一つに、陽菜は近寄る。
景品となっているのは、犬のぬいぐるみだ。
「このぬいぐるみ、あのときと同じものよね! ……って、覚えてる?」
「あぁ」
おそるおそる聞いてきた陽菜に、小さく頷く。
あのとき――小学校卒業を間近に控えた休日。
その日俺は、陽菜と二人でこのゲームセンターに来ていた。
「わぁ……! このぬいぐるみ、すっごくかわいいよ! ねぇ、まーくん。陽菜、これ欲しい! 取って取って!」
「おう! 俺に任せとけ!!」
陽菜にねだられた俺は自信満々に返事をして、クレーンゲームへお金を投入。
一発で決めてやるぜ!
そんな気持ちではりきって挑戦したのだが、失敗。
アームがモノを掴んだところまではよかった。
しかし、持ち上げる動作の途中で落ちてしまったのだ。
これ、めちゃくちゃ難しいぞ……。
どうしよう。ぜんぜん取れる気がしねえ……。
でも俺は、弱音なんて吐いたりしない。
俺は陽菜にとっての、頼れるヒーローでいたい。
こいつには意地でも、カッコ悪いところを見せたくなかった。
「い、今のは肩慣らしだ。次こそ取ってやるからな!」
「うん! まーくん頑張って!」
今度こそ絶対成功させてやる!
待ってろよ陽菜!
いつもより真剣な顔で二度目の挑戦をするも、
「……あ。クソッ!」
またもやゲットならず。
その後も諦めずにプレイし続けるも、失敗ばかりが続いてしまう。
「陽菜もやる! まーくんをお手伝いするの!」
しばらくして陽菜も参戦するが、結果は俺と同じ。
いくらやってもゲットできなかった。
そうして二人で何度も挑戦しているうちに、ついに終わりがやってきてしまう。
手持ちのお金が尽きてしまったのだ。
いくら心が折れていなくたって、お金がなければ挑戦しようがない。
俺も陽菜も悔しい気持ちでいっぱいだったが、泣く泣く諦めるしかなかった。
「見つけたときは驚いちゃった。だってあのときのぬいぐるみと、まったく同じものが置いてあるんだもの。なんだか運命めいたものを感じちゃうわよね――って、なにしてんのよあんた?」
クレーンゲームの筐体へ金を入れた俺を、陽菜が怪訝そうな目で見る。
俺は小さく笑って、
「決まってるだろ。あのときのリベンジをするんだ」
ボタンを押し、アームを操作する。
なにか言いたそうにしている陽菜に、
「俺に任せとけ」
あのときとまったく同じセリフを言ってみる。
そして、ボトン。
取り出し口に犬のぬいぐるみが落ちた。
『おめでとー!』
筐体から明るいアナウンスが流れる。
そう、景品ゲット。
数年越しのリベンジを、一発で果たすことができた。
「すごいわ……! ……ていうかあんた、ものすごくうまくなってない?」
「そりゃあな。あの日、お前にぬいぐるみを取ってあげられなかったのが悔しくてさ。それからしばらくここに通って、一人で練習してたんだ」
次こそはぬいぐるみを取って、陽菜に渡す。
あいつの願いを叶えて、絶対に笑顔にしてやる。
その一心で俺はゲームセンターに通って、こっそりと練習を積み重ねていた。
おかげでクレーンゲームの腕はかなり上達。
今度こそは確実に取れる――自信を持って、そう思えるまでに成長した。
でも、その矢先。
浅倉との一件が起きたことで、陽菜との関係はガラリと変わった。
陽菜と遊ぶことはいっさいなくなり、そうなると当然、ここへ来ることもなくなった。
せっかく鍛えたクレーンゲームの腕も、使う機会がなくなってしまったのだ。
そしてその機会は、もう一生訪れないものだと思っていた。
でも、ようやくだ。
あの日の陽菜の願いを、俺はやっと叶えることができた。
良かった。
それ以外の感想なんて、あるはずもなかった。
「やっとお前に渡すことができるよ」
犬のぬいぐるみを取り出した俺は、陽菜へ差し出す。
陽菜はそれを受け取るなり、
「う……ううっ、うわあああああん!!」
なんと、大声で泣き始めてしまった。
両手でギュッと抱きしめた犬のぬいぐるみに、ボロボロと涙の雨が降り注ぐ。
「ちょっ!? いきなりなに泣いてんだよ!」
「うるさい! まーくん――あんたが悪いのよ!」
俺は一瞬だけ慌てるも、すぐにホッと安堵した。
だってこの涙が、嬉し涙だと気付いたからだ。
どうしてそんなことが分かるのかといえば、答えは簡単。
俺とこいつが、幼なじみだから。
これくらいのことは、俺にはお見通しだった。




