【35話】近づいてくる雨宮さん
部屋に入ってきた雨宮さんの足が向かう先は、ベッド。
おそらく――というかほぼ確定で、俺に用がある気がする。
怒られる!
瞬時にそんな直感が働き、背筋をピンと伸ばして身構える俺だったが、
「せっかく来たことだし、ちょっとだけ漫画を読んでいってもいい?」
予想は大外れ。
言葉の内容もそうだが、雰囲気もいつも通りの楽し気なもの。
つまりは、まったく怒っていなかった。
……良かった。
だらんと肩を下ろし、ほっと胸を撫で下ろす。
「どうぞどうぞ。好きなものを好きなだけ読んでいいから」
「ありがとうね」
「邪魔者はこれで失礼しますね! あとは若いお二人だけでごゆっくり」
頑張ってくださいね! 、と俺にささやき、一番の最年少である舞はスキップで部屋を出ていった。
頑張れって……いったいなにをだよ。
妹の期待には極力応えたいと思って日々を生きている俺ではあるのだが、今回ばかりは無理だ。
言われたことが意味不明なので、応えようがない。
「これにしよーっと」
部屋の隅にある本棚から漫画を取ってきた雨宮さんは、ついさっきまで舞がいた場所――俺のすぐ隣に腰を下ろした。
その位置で漫画を読み始めたかと思えば、すぐに次のアクションへ移行。
ぐぐぐっと距離を詰め、傾けた頭を俺の肩に乗せてきた。
二人の間には、ほとんど隙間がなくなる。
息遣いが聞こえるほど――さっきの鷹城さんと同じくらいの距離まで、雨宮さんが近づいてきた。
「ええっと……ちょっと近すぎるんじゃないかな?」
せっかく困難な場を乗り切って落ち着いたというのに、こんなことをされたらまた別の意味でドキドキしてしまう。
男としては嬉しい気持ちももちろんあるのだが、これは心臓に悪い。
体に休息を与えるためにも、少し離れて欲しいところ。
「ほら、こんな近いと漫画だって読みづらいでしょ?」
しかし雨宮さんは、なんの言葉も返してくれない。
位置はそのままに、漫画をめくるだけだ。
その日の夜。
宿題を終えた俺は、私室の机に座りながら大きく伸びをする。
「今日は色々あったな」
どれも驚きのものばかりだったが、一番はやはり鷹城さんのことだろう。
顔を真っ赤にして急接近されたときは、心臓がドキドキしすぎて爆発してしまいそうだった。
あのとき俺は、どうして彼女があんな行動に出たのか分からなかった。
でも時間が経った今なら、答えが分かったような気がする。
剣崎に振られたショックにより、鷹城さんは今精神的に不安定なのだろう。
そんな状態であれば、どんなことをしてもおかしくはない。
なにをしたのか、きっと自分でもよく分かっていないはずだ。
「正気なら、俺にあんなことするはずがないしな――っと」
机の隅に置いていたスマホが震える。
電話がかかってきた。
画面に表示されている相手は、鷹城さんだ。




