表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/32

【3話】共通の趣味


 翌日の昼休み。

 いつものように体育館裏のベンチに来ていた俺は、弁当を食べながらスマホをいじっていた。

 

「もうすぐ公開日だな」


 スマホの液晶画面に映っているのは、俺が好きなアニメ『転生したら最弱魔法使いでした』の劇場版の情報だ。

 

 映画の公開日までは、あと二か月ほど。

 大ファンの俺としてはもちろん、公開初日に見に行く予定でいる。

 

 映画館に足を運ぶのが、今から楽しみで仕方ない。

 

「映画楽しみだよね」

「うん! …………うん?」


 目の前から聞こえてきた声に、つい勢いで相槌を打っちゃったけど……いったい誰だ?

 

 顔を上げるとそこには、

 

「や、村瀬くん」

 

 ニッコリと笑う雨宮さんがいた。

 昨日と同じく、パンパンに膨らんだコンビニの袋を持っている。

 

「……もしかして、今日もここで食べるつもり?」

「うん。教室気まずいし」


 いや、俺も気まずいんだけど。

 

 一昨日昨日と二日連続で会話をしているとはいえ、カーストトップ女子と二人きりというこの状況にはまだ慣れない。

 緊張してしまう。俺の順応性の低さを舐めないでほしい。

 

 それに昨日は一人の時間を堪能できなかったので、今日こそは! と意気込んでいた。

 

 しかし、断ることはできない。

 相変わらずここは、俺の私有地ではないのだ。

 

 諦めて端に詰めると、雨宮さんがその隣に腰を下ろした。

 

「私も好きなんだよね」

「え?」

「『転生したら最弱魔法使いでした』のことだよ。さっきスマホで見てたじゃん」

「あぁ……うん」


 アニメとか見るんだ。

 

 雨宮さんがアニメの話をしているところなんて、これまで見たことがない。

 そういうものには興味ないと思っていたから、ちょっと意外だった。


「演出とかキャラ同士の掛け合いが面白いよね」

「うん。会話のテンポがよくて、聞いていて気持ちいい」

「そうそう、そうなんだよ! 分かってるじゃん村瀬くん!!」


 興奮気味に声を上げた雨宮さんは、グイっと身を乗り出してきた。

 ものすごい熱量を感じる。

 

「原作が神なのはもちろんだけどさ、やっぱ監督の力量がすごいからだと思うんだよね! あの人の前作も良かったし!」


 ここで『監督が~』とか言っちゃうあたり、きっと雨宮さんはかなりのアニオタなのだろう。

 

 しかしアニオタ度なら、俺も負けていない。

 だから彼女の言っている意味は分かるし、その意見には完全同意だった。


 ここにいるのは、同じ好みを持つ二人のアニオタ。

 そうなるとアニメの話で盛り上がるのは、もはや必然。


 結局それは、予鈴が鳴るまでノンストップで続いた。

 

「ありがとうね村瀬くん」

「……え、うん」


 まさか、お礼を言われるなんて思わなかった。

 よく分からずに、テキトーに返事をしてしまう。

 

「私の周りにはアニメ好きな子いないから、こういうことって話せないんだよね。だからさ、とっても楽しかったよ! じゃあまた明日ね!」


 雨宮さんは満面の笑みを浮かべて立ち上がる。

 小気味良い軽やかな足取りで、ルンルンと校舎へ戻っていった。

 

「また来るつもりなんだ」


 これでまた明日も、貴重な一人の時間が奪われることが確定してしまう。

 

 でも、なんでだろう。

 心に広がるのは、嫌な気持ちではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ