【3話】共通の趣味
翌日の昼休み。
いつものように体育館裏のベンチに来ていた俺は、弁当を食べながらスマホをいじっていた。
「もうすぐ公開日だな」
スマホの液晶画面に映っているのは、俺が好きなアニメ『転生したら最弱魔法使いでした』の劇場版の情報だ。
映画の公開日までは、あと二か月ほど。
大ファンの俺としてはもちろん、公開初日に見に行く予定でいる。
映画館に足を運ぶのが、今から楽しみで仕方ない。
「映画楽しみだよね」
「うん! …………うん?」
目の前から聞こえてきた声に、つい勢いで相槌を打っちゃったけど……いったい誰だ?
顔を上げるとそこには、
「や、村瀬くん」
ニッコリと笑う雨宮さんがいた。
昨日と同じく、パンパンに膨らんだコンビニの袋を持っている。
「……もしかして、今日もここで食べるつもり?」
「うん。教室気まずいし」
いや、俺も気まずいんだけど。
一昨日昨日と二日連続で会話をしているとはいえ、カーストトップ女子と二人きりというこの状況にはまだ慣れない。
緊張してしまう。俺の順応性の低さを舐めないでほしい。
それに昨日は一人の時間を堪能できなかったので、今日こそは! と意気込んでいた。
しかし、断ることはできない。
相変わらずここは、俺の私有地ではないのだ。
諦めて端に詰めると、雨宮さんがその隣に腰を下ろした。
「私も好きなんだよね」
「え?」
「『転生したら最弱魔法使いでした』のことだよ。さっきスマホで見てたじゃん」
「あぁ……うん」
アニメとか見るんだ。
雨宮さんがアニメの話をしているところなんて、これまで見たことがない。
そういうものには興味ないと思っていたから、ちょっと意外だった。
「演出とかキャラ同士の掛け合いが面白いよね」
「うん。会話のテンポがよくて、聞いていて気持ちいい」
「そうそう、そうなんだよ! 分かってるじゃん村瀬くん!!」
興奮気味に声を上げた雨宮さんは、グイっと身を乗り出してきた。
ものすごい熱量を感じる。
「原作が神なのはもちろんだけどさ、やっぱ監督の力量がすごいからだと思うんだよね! あの人の前作も良かったし!」
ここで『監督が~』とか言っちゃうあたり、きっと雨宮さんはかなりのアニオタなのだろう。
しかしアニオタ度なら、俺も負けていない。
だから彼女の言っている意味は分かるし、その意見には完全同意だった。
ここにいるのは、同じ好みを持つ二人のアニオタ。
そうなるとアニメの話で盛り上がるのは、もはや必然。
結局それは、予鈴が鳴るまでノンストップで続いた。
「ありがとうね村瀬くん」
「……え、うん」
まさか、お礼を言われるなんて思わなかった。
よく分からずに、テキトーに返事をしてしまう。
「私の周りにはアニメ好きな子いないから、こういうことって話せないんだよね。だからさ、とっても楽しかったよ! じゃあまた明日ね!」
雨宮さんは満面の笑みを浮かべて立ち上がる。
小気味良い軽やかな足取りで、ルンルンと校舎へ戻っていった。
「また来るつもりなんだ」
これでまた明日も、貴重な一人の時間が奪われることが確定してしまう。
でも、なんでだろう。
心に広がるのは、嫌な気持ちではなかった。




