【11話】当たっているんですが
気が付けばもう、結構な時間になっていた。
雨宮さんが帰るというので、俺は駅まで送っていくことにした。
薄暗くなった道の上を、並んで歩いていく。
「いやー、ものすごく盛り上がったね! ゲームやるの久しぶりだったけど、とっても楽しかったよ! ありがとうね!」
「礼を言うのは俺の方だよ。あんなに楽しそうな舞を見るのは久しぶりだった。雨宮さんのおかげだ」
舞はいつでも明るくて元気だが、今日はとびきりに絶好調だった。
いつもとは違う要因。
それは言わずもがな、雨宮さんがいたからだ。
舞は俺にとって大切な妹だ。
だから舞を大いに喜ばせてくれた雨宮さんには、ものすごく感謝をしている。
「それじゃあさ、また遊びに行ってもいい?」
「もちろん。手料理を振るわまないといけないしね」
「お、さすが村瀬くん。ちゃんと覚えてるなんて偉いぞ~」
隣を歩いていた雨宮さんが、グイっと体を寄せてきた。
手を伸ばして、俺の頭をナデナデしてくる。
「ちょっ!? 恥ずかしいからやめてよ!」
「えー、いいじゃん。他に人いないし」
言う通り周囲に人はいない。
が、だからどうしたっていうんだ。
恥ずかしいことには変わりない。
「それとも村瀬くんは、私にこうされるのが嫌なの?」
「別に嫌とか、そういういうことじゃないけど……」
そりゃあ俺だって男だ。
雨宮さんみたいな美少女にナデナデされて、嫌な気持ちになる訳がない。
でもそれと同じくらい、恥ずかしいという気持ちがある。
きっと舞だったら大喜びするんだろうが、俺には無理だった。
「じゃあ問題ないよね!」
雨宮さんの口元には大きな笑みが浮かんでいる。
俺の頭を撫でるという行為のどこに、楽しみを見出しているんだろうか。陽キャの考えは理解できない。
「でも、もう少し離れてもらっていいかな」
「なんで?」
「だってその…………当たってるから」
雨宮さんの首の下へ視線を向ける。
そこにある大きくて柔らかな二つのものが、俺の腕にガッツリ当たっているのだ。
正直に言うと嬉しい。
だからこのまま言わないでおくのもアリかも、なんて思ったが、バレたときにこっぴどく怒られそうなので報告しておいた。
ハッとなった雨宮さんは、素早く体を離した。
顔は真っ赤に染まっている。
「……村瀬くんのえっち」
謝るべきか、それともお礼を言うべきなのか。
適切な言葉が選べない。
ここにコーラがあれがあのときみたく渡せたのだが、あいにく今は手ぶらだ。
とっさに言葉が出てこなくて、無言で俯いてしまう。
アスファルトとにらめっこする俺の顔は、雨宮さんに負けないくらい赤くなっていた。
******
雨宮さんを駅まで送り届けてきた俺は、家に帰ってきた。
深くため息を吐いた俺は、リビングのソファーにどっかりと座る。
思いもよらないハプニングがあったせいか、どっと疲れてしまった。
「乃亜さん、とってもいい人でしたね!」
弾んだ声を上げた舞が、俺の隣に腰を下ろした。
曇りのない瞳で俺を見上げる。
「あの人になら、お兄ちゃんを任せられそうです!」
「……どういう意味だよ?」
しかし舞はその問いに答えず、
「今日はとっても楽しかったです。……陽菜お姉ちゃんと遊んでいたときのことを思い出して、なんだか懐かしい気持ちになりました」
少し寂し気な声を上げた。
今となっては考えられないが、小学生の頃はよく陽菜が俺の家に来て三人で遊んでいたのだ。
舞は陽菜のことが大好きで、『陽菜お姉ちゃん』と呼んでものすごく懐いていた。
もしかしたら雨宮さんのことを、陽菜に重ねていたのかもしれない。
大好きな陽菜お姉ちゃんに、また会いたい。
口にはしないものの、きっとそんなことを思っているのだろう。
でも、ごめんな舞。
俺と陽菜の関係は既に絶たれている。
バキバキに壊れて、修復不可能だ。
この家に陽菜が来ることは、もう二度とない。
「……夕飯、なにが食べたい?」
「え? 今週のお料理担当は私ですよ」
「今日だけ特別だ」
せめてもの罪滅ぼしに、料理を作ることにした。
今の舞に俺がしてやれることは、それくらいしかないのだから。
「好きものを言え。なんでも作ってやるから」
「いいんですか! わーい!!」
身を乗り出した舞が、おもいっきり抱きついてくる。
さっきまでの曇り顔は、元気いっぱいの笑顔に変わっていた。
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