表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/36

【11話】当たっているんですが


 気が付けばもう、結構な時間になっていた。

 

 雨宮さんが帰るというので、俺は駅まで送っていくことにした。

 薄暗くなった道の上を、並んで歩いていく。

 

「いやー、ものすごく盛り上がったね! ゲームやるの久しぶりだったけど、とっても楽しかったよ! ありがとうね!」

「礼を言うのは俺の方だよ。あんなに楽しそうな舞を見るのは久しぶりだった。雨宮さんのおかげだ」


 舞はいつでも明るくて元気だが、今日はとびきりに絶好調だった。

 

 いつもとは違う要因。

 それは言わずもがな、雨宮さんがいたからだ。

 

 舞は俺にとって大切な妹だ。

 だから舞を大いに喜ばせてくれた雨宮さんには、ものすごく感謝をしている。


「それじゃあさ、また遊びに行ってもいい?」

「もちろん。手料理を振るわまないといけないしね」

「お、さすが村瀬くん。ちゃんと覚えてるなんて偉いぞ~」


 隣を歩いていた雨宮さんが、グイっと体を寄せてきた。

 手を伸ばして、俺の頭をナデナデしてくる。

 

「ちょっ!? 恥ずかしいからやめてよ!」

「えー、いいじゃん。他に人いないし」

 

 言う通り周囲に人はいない。

 

 が、だからどうしたっていうんだ。

 恥ずかしいことには変わりない。

 

「それとも村瀬くんは、私にこうされるのが嫌なの?」

「別に嫌とか、そういういうことじゃないけど……」


 そりゃあ俺だって男だ。

 雨宮さんみたいな美少女にナデナデされて、嫌な気持ちになる訳がない。

 

 でもそれと同じくらい、恥ずかしいという気持ちがある。

 きっと舞だったら大喜びするんだろうが、俺には無理だった。


「じゃあ問題ないよね!」


 雨宮さんの口元には大きな笑みが浮かんでいる。

 俺の頭を撫でるという行為のどこに、楽しみを見出しているんだろうか。陽キャの考えは理解できない。

 

「でも、もう少し離れてもらっていいかな」

「なんで?」

「だってその…………当たってるから」


 雨宮さんの首の下へ視線を向ける。

 そこにある大きくて柔らかな二つのものが、俺の腕にガッツリ当たっているのだ。

 

 正直に言うと嬉しい。

 だからこのまま言わないでおくのもアリかも、なんて思ったが、バレたときにこっぴどく怒られそうなので報告しておいた。

 

 ハッとなった雨宮さんは、素早く体を離した。

 顔は真っ赤に染まっている。

 

「……村瀬くんのえっち」


 謝るべきか、それともお礼を言うべきなのか。

 適切な言葉が選べない。

 

 ここにコーラがあれがあのときみたく渡せたのだが、あいにく今は手ぶらだ。

 とっさに言葉が出てこなくて、無言で俯いてしまう。

 

 アスファルトとにらめっこする俺の顔は、雨宮さんに負けないくらい赤くなっていた。

 

******


 雨宮さんを駅まで送り届けてきた俺は、家に帰ってきた。

 

 深くため息を吐いた俺は、リビングのソファーにどっかりと座る。

 思いもよらないハプニングがあったせいか、どっと疲れてしまった。

 

「乃亜さん、とってもいい人でしたね!」


 弾んだ声を上げた舞が、俺の隣に腰を下ろした。

 曇りのない瞳で俺を見上げる。

 

「あの人になら、お兄ちゃんを任せられそうです!」

「……どういう意味だよ?」


 しかし舞はその問いに答えず、


「今日はとっても楽しかったです。……陽菜お姉ちゃんと遊んでいたときのことを思い出して、なんだか懐かしい気持ちになりました」

 

 少し寂し気な声を上げた。

 

 今となっては考えられないが、小学生の頃はよく陽菜が俺の家に来て三人で遊んでいたのだ。

 舞は陽菜のことが大好きで、『陽菜お姉ちゃん』と呼んでものすごく懐いていた。

 

 もしかしたら雨宮さんのことを、陽菜に重ねていたのかもしれない。

 

 大好きな陽菜お姉ちゃんに、また会いたい。

 口にはしないものの、きっとそんなことを思っているのだろう。

 

 でも、ごめんな舞。

 

 俺と陽菜の関係は既に絶たれている。

 バキバキに壊れて、修復不可能だ。

 

 この家に陽菜が来ることは、もう二度とない。


「……夕飯、なにが食べたい?」

「え? 今週のお料理担当は私ですよ」

「今日だけ特別だ」


 せめてもの罪滅ぼしに、料理を作ることにした。

 今の舞に俺がしてやれることは、それくらいしかないのだから。

 

「好きものを言え。なんでも作ってやるから」

「いいんですか! わーい!!」


 身を乗り出した舞が、おもいっきり抱きついてくる。

 さっきまでの曇り顔は、元気いっぱいの笑顔に変わっていた。

読んでいただきありがとうございます!


面白い、この先どうなるんだろう……、少しでもそう思った方は、【↓にある☆☆☆☆☆から評価】を入れてくれると作者の励みになります!

【ブックマーク登録】もしているだけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ