【10話】手料理の約束
三人は一階のリビングへ集まった。
舞はキッチンで料理作り。
俺と雨宮さんは、食卓テーブルに向かい合わせで座った。
「舞ちゃんから聞いたんだけど、二人暮らしなんだってね。家事はいつも舞ちゃんがやってるの?」
「いや、分担制にしてる。一週間ごとに担当の家事を変えているんだ」
「ってことは、村瀬くんもお料理できるの?」
「うん。一応はね」
「お兄ちゃんの料理はとってもおいしいんですよ!」
キッチンから、舞の元気な声が上がった。
そう言ってくれるのは嬉しいけど、雨宮さんがいるところではよしてほしかった。
顔に似合わず料理とかするんだ、なんて思われたら最悪だ。
料理が似合う顔、ってやつがどんなものかは想像できないけど、ともかく変な印象を持たれてしまうかもしれない。
でも雨宮さんの反応は、
「すごいじゃん!」
というもの。
身を乗り出して、大きく感心してくれた。
変な印象を持たれずに済んだのはよかったのが、これはこれで照れくさい。
やっぱり言わないでほしかった。
「村瀬くんの手料理、食べてみたいかも!」
「期待しているのかもしれないけど、別にそんなにおいしいものでもないよ?」
普通以上にはできる自信はあるが、それでも素人の域を出ない。
プロの料理人並みのクオリティを期待しているのなら、それは無理な話だった。
「それでもいいの!」
「……そっか。それじゃ、また今度ね」
「うん! 約束だよ!」
雨宮さんの口元に、大きな笑みが浮かぶ。
水色の瞳は、らんらんと眩しく輝いていた。
めっちゃ期待されてるな……。
口に合わなかったらどうしよう。
雨宮さんに期待されていると思うと、ものすごいプレッシャーだ。
絶対に失敗できない。
でも、それだけではなかった。
楽しみにしてくれているという気持ちは、素直に嬉しい。
やるからには、なんとしても喜んでもらいたい。
絶対に成功させてやる!
いつか来る『その日』に向けて、俺は気合を入れる。
「お待たせしました!」
こっちにやって来た舞が、手際よくテーブルの上に食器皿を三つ乗せていく。
皿の上に乗っているのは、ふわふわ卵のオムライスだ。
いただきます、の挨拶をしてから三人は食事を始める。
いつも通りうまいな!
俺は満足げに頷く。
身内びいき抜きで、舞の料理はおいしい。
舞は俺の料理の腕を褒めてくれるが、それは俺だって同じ。
今日も最高のクオリティに仕上がっていた。
「めっちゃおいしいよ、これ! お店のやつみたい! 舞ちゃんは料理の天才だね!」
雨宮さんも大絶賛。
隣に座る舞へ手を伸すと、頭をナデナデし始めた。
そうだろう、そうだろう。
舞の料理は絶品なんだぜ!
妹が褒められたことが、自分のことのように嬉しい。
鼻が高くなる。
こういうのを、シスコンと言うのだろうか?
よく知らないが、違うといいな、と思う。
「やったー! 乃亜さんに褒められた!」
舞は大はしゃぎで、雨宮さんに抱き着いた。
心から喜んでいるのがよく分かる。
しかしこうしてみると、姉妹みたいだな。
俺がイヤホンで耳を塞いでいる間に、二人ともこんなに仲良くなっていたのか。
さすがは陽キャ同士。
スピード感がすさまじい。
「午後もいっぱいお話ししようね!」
「はい! 楽しみです!」
聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。
まだ三者面談を続ける気なの?
どうにかしてやめさせないと!
イヤホンをして気まずい空間をやり過ごすのにはもう疲れた。
午後はもう遠慮したい。
「せっかくだし、みんなでゲームでもやらない?」
ゲームに集中していたら、俺のことを話す暇もないだろう。
それを見越しての、この提案。
首を縦に振ってくれ! 、と心の中で強く願う。
「お話ししたいけど……ゲームをするのも楽しそうです!」
「いいね! やろやろ!」
二人ともノリノリで賛成してくれた。
今回はうまくいったぜ!
失敗を乗り越えて掴み取った成功に、俺はテーブルの下で小さくガッツポーズを決めた。
食事のあとは、リビングの大型テレビを使って三人でゲームをした。
ゲームは大盛り上がり。
三人の弾んだ声が、絶えずリビングを埋めていた。




