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第五話:改ざんの背景(資料室管理者・大学関係者の視点)
帝都大学・美術資料室。 管理者・三輪は、仮面の台帳に違和感を覚えていた。 筆跡が自分のものではない。 しかも、記録の改訂日付が“存在しない講義日”になっていた。
「これは、誰かが“講義があったことにして”記録を書き換えた痕跡だ。 だが、なぜ久我原透の名前が記されている?」
三輪は、大学の資料保全課に報告した。 応対したのは、文学部副主任・佐伯。
佐伯は、久我原宗一の名を聞いた途端、表情を曇らせた。
「久我原宗一氏は、戦前に“仮面の記憶”と呼ばれる未公開資料を残しました。 だが、その記録は大学の名誉を傷つける可能性があるとして、封印されたのです。」
三輪は、椿子の講義で紹介された“無銘の白面”が、その資料に関係していると察した。
「誰かが、封印された記憶を語ろうとしている。 そして、誰かがそれを止めようとしている。」
佐伯は、低く呟いた。
「沈黙は、大学が守ってきた“秩序”でもある。 それを語る者は、秩序の外に立つ覚悟が必要だ。」




