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第四話:資料室の異変
翌朝、資料室の管理者が異変に気づいた。 “無銘の白面”が、展示棚の中央に移動していた。 本来、その位置には別の仮面が置かれていたはずだった。
さらに、仮面の由来を記した台帳が、数日前の記述と食い違っていた。 椿子が以前に閲覧した記録では、“白面は戦後に寄贈された”と記されていた。 だが、今の台帳には、“昭和初期に久我原宗一が収集した”と書かれていた。
藤村が台帳の筆跡を確認した。
「椿子様。記録が改ざんされています。 筆跡は、管理者のものではありません。 そして、透さんの名前が、台帳の余白に書き加えられていました。」
椿子は、仮面を見つめながら呟いた。
「語られたはずの記憶が、誰かの手によって書き換えられている。 それは、沈黙を守るためか。 それとも、沈黙を壊すためか。」
その瞬間、資料室の奥から一枚の紙片が見つかった。 そこには、透の筆跡でこう記されていた。
「語る者は、沈黙に試される。 僕は、試されているのかもしれない。」




