第二話:静かな講義室
帝都大学・文学部棟。 朝霧椿子は、招待講師として「証言と記憶」をテーマに講義を行うため、講義室に足を踏み入れた。 教壇の背後には、古びた黒板と、仮面のスケッチが貼られた資料掲示板。 学生たちは静かに着席し、椿子の姿を見つめていた。
椿子は、ゆっくりと語り始める。
「語ることは、暴くことではありません。 語ることは、沈黙を理解するための手段です。 記憶は、語られた瞬間に形を変えます。 だからこそ、語る者には責任があるのです。」
学生たちは、彼女の言葉に耳を傾けながら、どこか張り詰めた空気を感じていた。 その空気は、椿子自身にも伝わっていた。
講義の終盤、椿子は一枚の仮面を掲げた。 それは、帝都大学の美術資料室に保管されていた“無銘の白面”。 由来不明、記録なし。 だが、椿子はその仮面に、微かな既視感を覚えていた。
「この仮面は、語られなかった記憶を宿しているように思えます。 それは、誰かが語らなかったことで守られた何か―― あるいは、語られることを拒んだ記憶かもしれません。」
講義が終わり、学生たちが退出する中、椿子は一人の男子学生の視線に気づいた。 彼は、最後まで席を立たず、仮面を見つめていた。
藤村がそっと近づいてきた。
「椿子様。資料室の管理者から連絡がありました。 昨夜、仮面の保管棚に“警告文”が貼られていたそうです。 内容は、こうです―― 『語る者は、沈黙に試される』」
椿子は、仮面を見つめながら、静かに息を吸った。
新たな沈黙が、語られることを拒んでいる。 そして、それは誰かの記憶に触れようとしている。




