原爆と竹槍93話
「君は、夫婦の残酷な再会を知っていたんだね」
「そうなんだ、でも、誰にも言えなかったよ」
「だから、一層、辛かったんだね」
「そうだ、それも彼女が遠い広島から苦難の旅をして帰ってきたと知った時は、胸が張り裂けるほど辛かったよ」
「でも、なぜ、上司に報告しなかったんだ」
「今日までの約一週間、妻の帰りを待っていたんだ。例え、その話が大爆弾を受けた後遺症の思い込みであったとしても。身体の痛みに堪えながら、妻が帰ってくるのを待つ姿を見ている私には、可哀想で、とてもこの場から彼を離すことが出来なかった。そして、死んだとはいえ、彼の妻の帰りを待つ想いが死んだ訳ではないと考え、今日一日だけでも彼をこの場所で、妻の帰りを待たせて上げたいと思ったからだ」
「そうか、もし埋葬していたら、彼女は夫に逢えずに死んだんだね。もしかしたら、夫婦の強い愛が、君にそうさせたのかもしれない。いや、そうさせたに違いない」
言った鮫島の目から涙が溢れ出た。
「今、私もそう思っている」
「やっと、三人が一緒になれたのだ。すぐに埋葬してあげよう」
「それは駄目だ」
「なぜだ?」
「埋葬は再会した家族の身体を引き離すことになる。それでは、この三人があまりにも可哀想だ。我々に出来ることは唯一つ、今日一日、そっとここに置いて上げることだ」
「そうだ、それが我々に出来る唯一の供養だ」
谷崎と鮫島は近くにある傘を三人の上に差し掛けると黙祷し、その場を去った。
誰も居なくなった後には、焦土と化した大地と、哀れな親子の姿だけだった。
やがて、ラジオから、終戦と告げる玉音放送が流れて来た。
核兵器は地球上で最も非常な最強兵器である。
戦争に勝つためには、最も確実な兵器は核兵器であるが、核を使えば地球は破壊され、戦争当事国の国民すべてを殺す自殺兵器となるのだ。
自殺兵器を使って戦争はできない。
そこで、裏の兵器を開発する必要がある、いや、もう、すでに開発されているかもしれないのだ。
表の最強兵器が核兵器なら、裏の最強兵器は、地球や自然を破壊せずに、狙った相手国の国民だけを殺す姿が見えない恐怖の兵器のことである。
平和ぼけと油断は大敵、国民が国家国民を守らずに誰が守ると言うのか。
国家国民を守るためには、裏表の兵器は無論のこと、如何なる攻撃を受けても防御できる備えが必要だ。