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原爆と竹槍  作者: サイシ
91/93

原爆と竹槍91話

「あなた!」

 叫ぶと、雪は走った、否、走った心算だが。歩く程度の早さだった。

 雪を付けていた二人の男は、雪の叫び声を聞いて、駆け寄ろうとしたが、申し合わせたように、走るのを止めて言った。

「間違いないね」

「うん、哀れなことだ」

 二人は、また、雪の後ろを付けた。

「楠はどこ?」

 雪は涙に濡れた目で、緑の葉が一杯に茂った楠の木を探したが、見渡すかぎり、緑色の植物一つ無く、一面、焼けこげた黒褐色であった。

 やがて、雪の前に突然、焼けこげた櫓のようなものが現れた。

 その櫓のようなものをよく見ると、半分に折れた木であった。

「楠の木」

 呟いた雪の脳裏に、生家の横に建っていた櫓と楠の木が一緒になった。

「大爆弾!」

 絶叫した雪は、その場に泣き崩れた。

「大爆弾が私の幸せを全て奪った!」

 絶望感で生きる力を失いかけた時、雪の脳裏に野菜畑が写った。

 (大爆弾が投下された時、夫は、山の野菜畑でさつま芋を掘っていたので助かり、今は楠の木の下で私を待っているわ)

 雪は楠の木の下が見える所へ急いだ。

 楠の木の下が見える所まで帰ってきた雪は、涙に曇った目で、楠の木を見ると、一人の男が椅子に座っていた。

「あなた!あなた!帰って来たわよ」

 喜びの叫びを上げながら雪は走ったが、夫が迎えに来ない。

(私がこんな姿になっているとは夢にも思わないから、私を誰か分からないのよ。やっぱり、楠の木の下で待っていてくれたのね、うれしい)

 走る雪の目は涙で曇り、明の姿がよく見えない。

 やっと明の元へ駆け寄った雪は、明の膝に鈴子を乗せて言った。

「あなた、鈴子を死なせてごめんなさい」

 明は鈴子を抱いたままの姿勢で崩れ落ちるように地面に落ちた。

「あなた、どうしたの!」

 明の衣服は正常だったが、顔や腕は、雪が見た原爆で死んだ人と同じだった。

「死んでいる!」

 雪あ明を抱いて号泣した。

「私は、あなたに逢いたくて帰ってきたのよ、死んだら嫌」



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