表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
原爆と竹槍  作者: サイシ
90/93

原爆と竹槍90話

二人の男は、死んだ鈴子を見て涙を流した。

「私たちは、戦災被害者をお助けする核目を負った、自警団の谷崎と鮫島です。被災者の方を見つけたら、病院にお連れする役目をしているのです」

 谷崎が涙を拭きながら説明した。

「夫が私の帰りを待っています。もう、病院に行く時間がないのです」

 雪の言葉を聞いた二人は、驚いたように顔を見合わせた。

「どちらから、お帰りになったのですか」

 あることを思い出したのか、目を潤ませて尋ねた。

「広島からです」

 広島と聞いた二人の男の目から涙が溢れ出た。

 出る涙を止めようと男たちは、空を見上げたが、涙は止まらなかった。

「ご主人が待っているんですね。じゃあ、どうぞ、帰ってください」

 谷崎が悲しみを必死に堪えて言った。

 一礼して、雪が歩きだした。

 すると、鮫島が雪に聞こえないように小さな声で言った。

「広島にも大爆弾が投下されたんだね。よく、あの身体で、遠い広島から帰ってこれたね、抱いている子供は死んでから間もない、彼女の悲しみは想像を絶すつものがある。その辛さに堪え、待っている夫の元へ急いでいる。もう黙って見ていられない。彼女を夫の元へ連れて行こう。僕が彼女を背負うから、子供を頼む」

「手助けはよせ!」

 谷崎が有無を言わさぬ強い語調で言った。

「何故だ、今にも死にそうなあの女性を、助けようともしないで、帰ってくださいとは何事だ。君が嫌なら私が背負って行く」

「止めておけ!」

 谷崎が再度制した。

「なぜだ!」

「ここまで、一人で帰ってきたのだ。その強い想いを完遂させて上げたいのだ」

 谷崎が辛そうに言った。

「確かに、彼女の姿には、誰の姿も受け付けないと言う強い意志を感じる。もし、我々が助けると、緊張の糸が切れ、今すぐ死ぬかもしれないね」

 納得したが、辛いのか鮫島は天を仰いだ。

「さあ、後を付いて行こう」

 言った谷崎だが、鮫島に背を向けて泣いた。

「何故、そんなに悲しむのだ」

 鮫島が問い掛けるが、谷崎は何も答えず、雪の後を追う。

 雪から三千メートルほど後を歩きながら、谷崎が言った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ランキング参加しました。ポチとクリックお願いします。 いつもランキング応援ありがとうございます。 人気ブログランキングへ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ