表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
原爆と竹槍  作者: サイシ
88/93

原爆と竹槍88話

「どこまでも、不運な母と娘。でも私は思いたい、あの母娘に奇跡が起こることを、そして、願うわ、あなたは、世界一の藪医者だった。だから誤審したと」

「私も同じことを考えていたよ。そうだ、私は薮医者だ、きっとあの母娘に奇跡が起こるとね」

「そうよ、そうに違いないわ」

「でも、今でもあの哀れな姿をした母娘を追いかけていき、新しい服か着物を着せてあげて仕方ないよ」

「私も同じ気持ちよ」

 雪と鈴子を見送る老夫婦の目から涙が途絶えることはなかった。

 鈴子を背負った雪は、もうすぐ夫の元に帰れると言う希望を胸に、嬉嬉津の岡本家に着いたのは、家を出てから十五日目の八月十四日だった。

 雪は岡本家の前に立って言った。

「岡本様、ただ今戻って来ました。でも、母を連れて帰って来れませんでした。私が出会った全ての人たちはみんな優しい人でした。でも、その人たちの中には無惨にも殺された人も居ました。そして、あなたから頂いた自転車も壊されました」

 悲しみ堪えれなくなった雪は、その場で泣き崩れた。

 しかし、何時までも泣いてはいられない。

 雪は岡本家に一礼し、我が家に向かった。

 一足毎に、我が家に近づいていると思うと嬉しくなり、鈴子に言った。

「鈴子、父さんが鈴子の帰りを待っているわよ。父さんに会いたいでしょう、それも、もう少しの辛抱よ。あなた、すぐ帰りますから、楠の木の下で待っていてね」

 夫が待っている。

 そして、夫と共に権力の無い国を創り、鈴子と三人で幸せに暮らせると思うと、心身の痛みも忘れるほどの喜びを感じる雪だった。

 雪は歩いた。

 暗闇は不便だが、暑い昼を歩くよりは、涼しくてはるかに楽であった。

 しかし、歩く速度がだんだんと遅くなり、一時間に一キロも歩けなくなった。

 我が家まで5キロになったとき、東の空が明るくなってきた。

(間もなく夜明け、早く帰って、朝のご飯の支度をしなければ)

 心は急ぐが、歩く速度がまた遅くなる。

 一キロほど歩いた時。

「お水」

 背中から、今にも消え入りそうな鈴子の声がした。

「はい、お水」

 飲みなさいと水筒を渡したが、鈴子が受け取らない。

「お水はいらないの?」

 尋ねたとき、急に鈴子の身体が重くなった。

「そう、下りてから飲みたいのね」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ランキング参加しました。ポチとクリックお願いします。 いつもランキング応援ありがとうございます。 人気ブログランキングへ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ