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原爆と竹槍  作者: サイシ
82/93

原爆と竹槍82話

やがて、小長井に着き、小さな橋の下で一夜を過ごした。

 翌日は、暗いうちに出発したが、諫早駅まで、後、数キロまでに来たときには、辺りはすでに夕闇に包まれていた。

 橋を探す時間も無く、その夜は小さな公園の片隅で一夜を過ごすことにした。

 しかし、鈴子の病状は悪化しているのか、茹でたさつま芋を潰し、水に溶かして飲まさないと、食物が喉を通らなかった。

 それでも、鈴子は苦痛を訴えなかった。

 雪は、鈴子が可哀相でならない。

 今すぐ病院へ連れて行き、その痛みをとりのぞいてやりたい。

 だが、医者に支払うお金が一銭もない。

 その辛さに泣いた、しかし、泣いたとてどうなるものではない。

 雪が出来る最善の方法は、一時も早く夫の元に帰ることしかないのだ。

 やっと、長い夜が明けた。

 雪は痛みに堪える鈴子を背に、諫早の町を急いだ。

 諫早の町は、長崎市に原爆が投下されたせいで、町は火が消えたように静かだった。

 そんな一軒の家の中では、腰の曲がった老婆が老夫に言った。

「早く起きなさい」

 聞こえてくる筈なのに老夫が起きない。

「早く、起きないと病院へ行くのが遅れるわよ」

「今日は、老人だからと、一日、休みを与えられたのだ」


「なんだ、それなら、そう言ってくれたらいいのに。じゃあ、また、寝ます?」

「起きるよ」

「そう、じゃあ。食事にしましょうね」

 朝食を取りながら、老妻が尋ねた。

「ねえ、長崎市に投下された大爆弾の被害の様子は?」

「無惨な姿で次から次へと死んで行く、可哀相で見るに堪えれない」

「最新の医学でも治らないの?」

「被災者の様子を見た時は治せると思った人もたくさん居た。だが、如何なる薬や技術を駆使しても治らないのだ」

 この老人は、十年間、老齢を理由に引退した元医者である。

 長崎市に原爆が投下され、何十万人もの被災者が出たため、長崎市の医師や病院では、対応できなくなり、近隣の市町村に応援を求めてきたので、この老人は志願したのだ。

「この戦争で、数え切れない程の尊い命が失われたよ」

 老医師が残念そうに言った。

「我が子二人もね」

 老妻が涙を流す。

「天皇陛下さまは、米英との戦争を激しく反対なされました。しかし、政府と軍部は、無視して戦争を始めたのだ」


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