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原爆と竹槍  作者: サイシ
81/93

原爆と竹槍81話

その辛さから逃れようと、夫と鈴子の三人で楽しく暮らした日々を思いだしていると、いつのまにか眠っていた。

 夢は、その余韻なのか、夫の夢を見て胸が切なくなるほどの喜びを感じていた。

 だが何時までも楽しい夢を見させてはくれなかった。

 雪は、母親が殺される夢を見て、権力を許す事が出来ず。母親に誓った。

「母さんと広島市民を殺したのが、権力者が勝手に戦争を始めたからです。戦争は権力と権力の衝突です。もし、権力が無かったら、今の戦争は起こらず、大多数の国民が死傷したり不幸にならなかった。こんな悲惨な戦争を無くすために、私は長崎に帰ったら、夫と鈴子の三人で、権力の無い国を創ります。そして、世界各国の権力を持たない人民に呼びかけます。権力のない国をつくりましようと、必ず、賛同して頂けると、私は確信しています。何故なら、世界各国の人民は、日本人のように、みんな争いを好まず、優しい人たちばかりだからです。世界中の国から権力を無くし、権力を持たない全ての人民が直接政治を行ったら、この地球上から戦争が無くなると、私は信じます」

 その声で、鈴子が目を覚ましたのか、弱々しい声で言った。

「早く、家に帰りたい」

 鈴子が早く家に帰りたいと言ったのは、父親や祖母に会いたいのは当然だが、家に帰ったら、父親や祖母が身体の痛みを消してくれると思っているのだ。

 鈴子の心が分かる雪は可哀相で、思わず小さな鈴子の身体を抱きしめていた。

「痛いわ、かあさん」

「ごめんね」

「でも、母さんの胸は暖かくて気持ちいい」

「じゃあ、少しの間、抱いていい」

「いいわ」

 夜が明けた時には食事の用意も出来たが、二人とも身体の悪化によるのか、一口も食べることが出来なかった。

「じゃあ、父さんやお婆ちゃんの居る家に帰るわよ」

「うん」

 痛みに堪え、鈴を鳴らしながら歩く鈴子の後ろ姿を見た雪は、可哀相で、これ以上歩かされないと思った。

「身体が痛いでしょう、もう歩かなくていいから、私の背に乗りなさい」

「痛くないから、歩くわ」

 鈴子は母が自分と同じように痛みに堪えていることを知っていた。

 子供心にも、日々、弱々しくなる母が一言の弱音も吐かずにいる姿を見ているうちに、自分が痛いと言ったら母がどんなに悲しむかを知り、どんなに痛くても痛いとは言わなかった。

 そんな親思いの優しい鈴子も、しばらく歩いているうちに歩けなくなった。

 雪は鈴子を背に歩く。

 いくら鈴子が痩せ細って、軽くなったからとて、今の雪には重く感じる。

 それほど雪の病状も悪化していた。

 だが、雪は歯を食いしばり、身体の痛みに堪えながら、一歩一歩と、夫の元へ急いだ。


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