原爆と竹槍8話
「待ってください。もしかしたら汽車に乗って行くの?」
「そうよ」
「それなら、ぜひ、聴いて頂きたいことがあります」
「なんでしょう?」
「汽車は乗るのは、とても危険なことよ」
「なぜですか?」
広島市へ行くためには、汽車しか手段がない雪には、汽車が危険といわれ、その訳を聞かずにはいられなかった。
「一ヶ月前、嬉嬉津に住んでいる親戚の者が汽車に乗って小倉へ出掛けたの。しかし、汽車が米軍の攻撃に遇い多数の死傷者がでたわ」
「恐ろしい」
雪の声が震えいた。
「親戚の者負傷したけど、歩くことが出来たので線路の上を通って次の駅に行ったそうよ」
「大変な目にあったのね」
「そうよ、その上、着いた駅で汽車が来るのを半日も待ったけど、汽車が来ないから、待ちきれずに次の駅へ行った。でも、その駅でも汽車は来ないため、次の駅に向っていると、鉄橋が爆破されていたのよ。いくら待っても汽車が来ない訳よね。
「じゃあ、前へ進めないわね」
「そうよ、だから、川下の大きな橋へ行くと、その橋も爆破されていたのよ」
「なぜ、橋を爆破するの?」
「自転車で物資を運ばせないためよ」
「鉄橋や橋を爆破されたら、汽車や自動車は走れないわね」
「そうよ。だから、歩くしかなかった。その上、困ったのは、お腹がすいても食事が出来ないことよ」
「何故?」
「食料不足により、一軒の食堂も見つからなかったのよ」
「それは、大変ね」
「やっと汽車に乗る事ができたけど、三日も遅れて小倉に着いたそうよ。その三日間の二日は食事抜きだったと言っていたわ」
「大変な旅だったのね」
「小倉に着いた親戚の者が行った先で、その話を聞かせると、帰りを心配した先方は、自転車で帰られるようにいうと、食料を自転車に積んでくれたそうよ。そのお陰で、嬉嬉津へ帰って来られたと言っていたわ」
「私、どうしょう」
雪が悲しそうに言うと、道子が言った。