原爆と竹槍76話
老夫婦の主食は、麦とさつま芋であったために、綾が殺されてから、毎日麦のご飯のお弁当を持って、綾が殺された有明海へ行き、綾の冥福を祈った後は、老夫婦の心が安まるまでの長い時間、綾と三人で話し合い、三人で弁当を食べていたのだ。
今日は、綾の所へ行く途中で雪と鈴子に出会ったのだった。
老夫婦がお米のご飯を食べられるほど裕福ではないことを雪は感じていたので、お弁当を頂いたことを悪い事をしたように思えて仕方がない。
雪が感じたように、老夫婦にとって、この米は、長女が東京から帰った時に食べさせようと残しておいた最後の米だった。
しかし、今朝、綾のことを考えていた老妻はふと思った。
(綾が戦災に遭って帰ってきてから、綾に一粒のお米もたべさせてやっていなかった。なんて可哀相なことをしたんだろうと)
老妻は声を出して泣いていた。
「何故、泣いているのだ」
老夫が驚いて尋ねた。
「綾のことです」
「綾がどうしたのだ?」
老妻が訳を話した。
「そうだった、食べさせてやればよかった」
老夫婦は共に泣いた。
「ねえ、あなた、今日は、綾にお米のご飯をたべさせましょう」
「それがいい」
「じゃあ、すぐ、お米のお弁当を作るわ」
老夫婦は、綾に食べさせようと思って持ってきたのだ。
しかし、雪と鈴子の哀れな姿を見ていると、何故か、綾が、この二人に食べさせて上げてくださいと言っているように思えたのだ。
「お米のご飯を食べれるのは、久しぶりです。ありがとうございました」
何度、お礼を言っていいかわからないほど、ありがたかった。
「喜んでくれて嬉しいよ」
老夫は、雪と鈴子をしげしげと見ていたが、決心したのか尋ねた。
「あなたは、もしかしたら、綾の死を報せてくれた木村雪さんでは?」
出来るなら、知られずにいたかった雪だったが、こんなに親切にされたら、嘘をつけなくなった。
「はい、そうです」
「え!あの親子」
老妻が驚きの声を上げると。
「可哀相に、こんな酷い姿になって」
以前の面影もない、哀れなほど小さくなった雪と鈴子を抱くと、老妻は堪らずに泣いた。