原爆と竹槍75話
しかし、もう立ち上がれなくなり、道端で座り込んでいると、後ろから声をかけられた。
「どうなさいました」
雪が朦朧とした目で見ると、二人が自分を心配そうに見ていた。
よく見ると、顔に覚えがあった。
(山田さんだ。もう、もうここまで帰ってこれた)
山田は、大良町に住んでいる老夫婦で、戦闘機に撃ち殺された綾の両親である。
雪は名乗ろうとしたが、名乗ったら、両親が殺された綾を思い出し、悲しむと考え、あえて名乗らずに別れようと考えた。
「疲れましたので、一休みしているんです」
「その姿から察すると、米軍機の空襲で焼出されたんだね」
老夫が言った。
「はい」
「可哀相に」
老妻が言った。
「私の娘も、米軍の空襲で焼出されたんですよ」
老夫が目に涙をためて言った。
「そうでしたか」
答えるのに、やっとだと、気付いた老妻が言った。
「可哀相に、この人たちは何も食べていないようよ」
「そのようだね」
「このお弁当を上げましょうか」
老妻が言うと。
「それがいい」
と老夫が答えた。
「これを食べてください」
言うと老夫妻は、持っていた竹の皮に包んだ物を雪に渡した。
雪が竹の包みを開くと、白いお米のご飯があった。
「こんな大切なお弁当をいただいてもいいのですか」
「いいも悪いもない、早く、お子さんと一緒に食べなさい」
老夫婦に急かされ、雪と鈴子は食べたが、喉に詰まる、それを見て老夫婦が持ってきた水を飲ませ、背中をさすった。
久しぶりの食事、それも、一年に数回しか食べたことがない白いご飯を食べたことで、雪と鈴子に元気が戻ってきた。
食べ終わった雪が老夫婦にお礼を言った。
「食物が無くて困っていました。でも、美味しいお米のご飯をいただいて、生き返ったような気持ちです。本当にありがとうございました」