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原爆と竹槍  作者: サイシ
74/93

原爆と竹槍74話目

「しっかりして!」

 身体を揺すった。

 鈴子が消え入りそうな声で言った。

「かあさん、お水」

 鈴子が苦しげに口を開けた。

 水はない、だが、鈴子が口を開けて待っている。

 出来る事なら、我が血でも飲ませてやりたい雪だが、それも出来ずに雪は泣くのだが、涙も枯れ果てたのか出てこない。

「可哀相な鈴子」

 辛さに耐えられなくなった雪は鈴子を我が胸に抱いた。

 すると、雪の手は無意識に自分の乳房を持ち、鈴子に含ませていた。

「うんと、飲みなさい」

 鈴子がお乳を吸う、初めて、鈴子にお乳を飲ました時の、あの幸せな瞬間を思い出し、切ない愛おしさがこみ上げて、一時、全ての苦しみを忘れた。

 鈴子は、無意識に雪の乳房に手を当てて飲んでいた。

 母親が子供にあげられる最高の愛はお乳である。

 例え、お乳が出なくても、吸うだけで母の強い愛を感じた鈴子は、空腹や身体の痛みを忘れたように安らかな寝息を立て始めた。

 鈴子の寝息を聞いた雪の心も安まり、鈴子を抱いたまま、浅い眠りについた。

 哀れな親子の寝姿を、星たちが安らかに眠れとばかりに瞬きをしながら見守り、天も親子の悲しい境遇に堪えられなくなったのか、涙を流星に変え、地上に降らせていた。



 どのぐらいの時間を眠っただろう。

「かあさん、お腹すいた」

 鈴子の声に雪は目が覚め、同時に激しい空腹感に襲われて目を開けると、夜は開けていた。

「食物を探すわね」

 雪は、辺りを見渡したが、食べられそうな草や木の実はなかった。

「歩ける?」

 鈴子が首を振る。

「母さんの背に乗りなさい」

 雪が背を向けた。

「母さんは歩けるの?」

 鈴子は心配そうに尋ねた。

「大丈夫よ、さあ、乗りなさい」

 鈴子が雪の背に乗った。

 今の雪に、普段より痩せたとはいえ、鈴子を背負うのは重労働である。

 そのため、数百メートル歩く度に休み、水を飲んでは、また、歩いた。


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