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原爆と竹槍  作者: サイシ
73/93

原爆と竹槍73話

 雪は、鈴子の耳に唇を寄せ、小さい声で言った。

 鈴子は震えながら、雪の胸に頷いた。

 息を懲らす二人の耳に、がさがさと落ち葉の上を駆け回る音が聞こえた。

 ネズミ、イタチが歩く小さな音でも、それ以外の音が聞こえ暗闇の中では、恐い思いをさえられた犬が走る音に聞こえるのだ。

 二人は身を地締め、音が聞こえなくなるまで、息をこらし、恐怖に耐えるしかなかった。

 やがて、音が聞こえなくなった。

 恐さによる緊張がとれたのか、鈴子が弱々しく言った。

「かあさん、何か食べたい」

「何もないの、水を飲んでね」

 鈴子に水筒を渡した。

 こんな会話を何度しただろう。

 そしてついに水は無くなり、鈴子が水筒を持ち、辛そうに言った。

「お水がない」

「ごめんね、暗くて、お水を探せないの、だから、夜が明けるまで待っていてね:

「うん」

 雪は、鈴子の我慢が限界を越えていることが分かっていた。

 しかし、何もしてやれなくて泣いた。


 少しの間、鈴子は我慢していたが、とうとう、我慢できなくなって言った。

「お水が欲しい」

「じゃあ、母さんは、その辺りで、水を探してくるわね」

 言って、雪は力なく立ち上がった。

「どこへ行くの!」

 鈴子は恐怖に慄きながら雪の足を掴んだ。

「お水を探しに行くのよ」

「こわいから、遠い所へ行かないで」

「行かないわ、鈴子が聞こえるように、鈴子に話かけるから答えてね」

「うん」

「そうだ、鈴子は話す力もないから、私が話掛けたら、うん、とだけ答えなさい」

「うん」

「それでいいわ」

 僅かな星明かりを頼りに、雪は水を探した。

 声が鈴子に届く範囲は限られているため、水を探し当てるのはほとんど不可能である。

 だが、探すしかないのだ。

 何度も話しかけていると急に返事が聞こえなくなった。

「鈴子」

 雪は急いで戻ってくると、鈴子がぐったりしていた。



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