原爆と竹槍72話
しばらくの間、雪は、もう、戦闘機がくることがないと考え、干潟に入ろうとした時、またしても、轟音と共に戦闘機が現れ、海上を旋回していた。
戦闘機の執念深さから、綾を弄んだあげくに殺した快感が忘れられずに、二人目の綾を探しているのは明らかだった。
そのため、貝を取るのを諦めるしかなかった。
「鈴子、貝が取れなくなったわ。ごめんね」
戦闘機の恐さを二度も経験していた鈴子は納得した。
空き腹をかかえ、雪と鈴子は有明海を離れたが、食べる物の当てもないままに、歩くしかなかった。
しばらく歩いていると鈴子が言った。
「もう、歩けない」
可哀相だが、今の雪には、鈴子を背負う力がなかった。
「だめ、歩かないと、お父さんやお婆ちゃんの所へ戻れないのよ」
雪の言葉に、鈴子は小さい足に力を入れて歩いた。
人間は一カ所で静かにいたら、一週間ぐらいは水を飲むだけで生きていける。
だが、この二日間、雪は水だけ、鈴子は小さなさつま芋を一本食べただけだった。
今日も食べられない場合は明日の命が保障できない。
だが、常時、左側に見える有明海へ行けば貝が取れるが、もし、自分が戦闘機に撃たれたら、一人になった鈴子は絶対に生き残れないと思うと、危険は犯せない。
道の右側は、食べられる物などない山である。
少し有ったとしても、町中で育ち、田畑の農作物しか知らない雪に、山の中、それも道端から見つけ出すのは不可能であり。
ついに食物を見つけ出すことが出来ずに夜がきた。
力つきた雪と鈴子は道端の大きな木の下に倒れこむように寝転んだ。
空腹に堪えられなくなった鈴子が水を飲んでから尋ねた。
「何時、お父さんやお婆ちゃんの所へ帰れるの」
帰る道は、覚えていた目印お遡ることにより分かるが、帰れる日までは答えられない。
しかし、鈴子に不安を感じさせてはいけないと考え、適当に答えた。
「あと、三回、眠ったら帰れるわ」
「帰ったら、お腹一杯食べれるわね」
「そうよ、お腹が破れそうになるまで、食べれるわ」
「早く、三回、眠りたいから、私、眠るわ」
鈴子は眠ろうをした。
遠くで、犬の鳴き声が聞こえた。
「恐い!」
鈴子が雪に抱きついた。
「泣いたり、声をだしたりしたら、犬や熊が聞きつけ、襲ってくるから、静かにするのよ」