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原爆と竹槍  作者: サイシ
71/93

原爆と竹槍71話

だが、全ての被災者は、自分の家が焼け、食べる物や着るものなど、全てを無くしても、誇りを失わず、自分を犠牲にしても社会の秩序を守ったのだ。

 そのため、関東の治安は保たれ、驚くほど早い復興を成し遂げられたのだ。

 誇りや恥の美徳は、日本有史以前より、各人の心の中に延々と受け継がれていたのだ。

 だが、悲しいことに、一度、権力を与えると、自分の利益のためなら、平気で国家を売るような独裁者に豹変する者がいる。

 その典型が伊達政宗である。

 政宗は、日本を支配するために、西洋に助けを求める使者を送ったが拒否された。

 役目を果たせなかった多くの使者たちは、日本に帰れば切腹を命じられるので、帰りたいが帰れずに激しい故郷への念を抱きながら、スペインの地に留まることを決意したのだ。

 もし、政宗の願いが叶っていたら、日本は南米諸国のように植民地になっていた。

 権力は独裁であり国民の敵である。

 一部の人間が権力を持つ国家に真の幸せは無い。

 その証拠は、今の日本を見たら、一目瞭然である。

 権力による多くの犠牲を見た雪は、権力を心から憎むようになり、もし、可能なら権力のない国を創りたいと考えていた。

 しかし、今の雪には余りにも遠い夢、今は、今を生きるための食物を探さねばならないのだ。

 雪と鈴子は必死に食物を探し歩いた。

 誰のものでもない物の中から食物をさがさねばならない。

 しかし、昼が過ぎても、食べ物が見つからないため、水で腹を満たすしかなかった。

 やがて、鹿島市に着いたが、どこの家も門を閉ざし、人声も歩く姿も見かけないが、微かに食物の匂いが漂ってくる。

 しかし、その匂いは雪と鈴子に一層の空腹感をもたらす。

 その苦しみに堪えながら母娘は鹿児島市を通りすぎた。

「かあさん、お腹すいた」

 鈴子が弱々しく言った。

「ごめんね、でも、すぐ、見つけるから、辛抱してね」

「すぐって、、いつ?」

 雪は言葉に詰まった。

「ねえ、本当に食べれられるの?」

「今夜までに必ず、見つけるわ」

「今夜?」

「鈴子にこんな辛い思いをさせたりしてごめんね」

「母さんが何も食べないから、鈴子も我慢しているの、こんど、鈴子が食べる時には母さんも一緒に食べてね」

 鈴子は、雪が食べずにいることをしっていたのだ。

 聞いて雪の目から、涙が溢れ出た。

 その涙を隠そうと、左側を向くと、有明海が涙の向こうに見えた。 

 そして、綾の哀れな姿が蘇ったと同時に、綾が貝を取っていたことを思いだした。

「あの海辺へ行ったら、食物が取れるかもしれないから、行くわよ」


「どんな食物」

「貝よ、貝はね、煮ても焼いても美味しいのよ」

「貝って、あさり、ハマグリ?」

「分からないけど、一杯、取れるわ」

「うん、早く、美味しい貝を食べたいわ」

 雪と鈴子は、無い力を振り絞って、有明海へ行った。

「ここで、待っていなさい」

 鈴子を松の下に座らせ、雪が有明海の干潟に入ろうとした時、急に飛行機音が聞こえ、後ろの山から戦闘機が現れた。

「きゃあ!」

 雪は、悲鳴を上げて、干潟から鈴子の所へ逃げ帰ってきた。

 もし、雪が二十メートル以上、干潟の中へ入っていたら、雪の運命は綾と同じ運命を辿ることになっていた。

 逃げ戻った雪だが、いくら、戦闘機が恐ろしいからといっても、貝を取らないと、二人が飢え死にする恐れがあるために、此処から逃げ出すことが出来ない。

 戦闘機は、第二の綾を探そうとするかのように、有明海上空を旋回していたが、どこかへ飛んで行った。



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