原爆と竹槍66話
絶対に安全な隠れ家を急いで探したが無いため、仕方なく、稲の下に伏せたが、飛行機音を聞いていると、戦闘機でないように思い、上を見るとB二十九が長崎方面へ向かって飛んでいた。
「脅かさないで」
自分が攻撃されないと分かった雪は急いで稲の下から出ると自転車に乗った。
B二十九が雪の上空に近付くに従い、飛行機音も段々と大きくなり、雪に聞こえる音は、B二十九の飛行機音だったために、別の小さな飛行音を聞き逃していた。
B二十九の飛行音が少し小さくなったとき、雪の耳に別の飛行音が聞こえてきた。
振り向いてみると、あの恐ろしい戦闘機が向かってくるのだ。
「きゃあ!」
恐怖感から、稲の下に伏せるのを忘れ、反射的に自転車を漕いだために、戦闘機が気付き、雪を目掛けて、一直線に飛んでくる。
雪は必死に自転車を漕いだ。激しい銃撃音と共に、道路脇の稲が弾け飛んだ。
その音に、鈴子は恐怖の泣き声を上げる。
有明海の綾のように、また、猫がネズミを弄んでから食べるように、雪と鈴子は、この戦闘機に弄ばれた末に殺されるのは明らかである。
雪を追い越した戦闘機は、旋回すると、雪の正面から飛んできて、道路脇の稲に無数の銃弾を打ち込む、その様はまさに、綾を弄んで撃ち殺した戦闘機そのものだった。
そのことから、今度は雪を狙い撃ちすることは確実だった。
雪は、絶望の中でも、鈴子を助けたい一心から、諦めず逃げ場を探していると、目の前に幅が五十センチ程の小川があった。
その小川は、戦闘機から見たら、例え、そこへ逃れても、撃ち殺せると思う程小さな小川だったので、何時でも撃ち殺せると思ったのか、一瞬、撃つのが遅れた。
雪は、自転車を下りると、泣き叫ぶ鈴子を抱いて、小川に飛び込んだのと同時に、弾丸が道路と自転車に当たり、自転車が破壊された。
しかし、戦闘機は、まだ、雪親子を殺せると思ったのか、一度、飛び去ってから急旋回をし、雪が潜んでいる小川に対して、直角に銃弾を撃ち込んだ。
雪は、小川に伏せ、神仏に加護を願った。
「助けてください」
小川の幅は小さいが、深さは一メートルほどあったので、銃弾は雪には当たらなかった。
戦闘機の飛び去る音を聞き、雪は戦闘機の姿を追った。
攻撃に失敗した戦闘機が機首を小川の下流に向けた。その行動をみた雪は戦闘機の意図が分かり、心臓が凍った。
なぜなら、小川に平行に飛べば、いくら小川が深くても、銃弾は確実に雪と鈴子の身体を撃ち抜けるのだ。
雪は急いで、隠れる場所を探すと、三十メートル先に、頑丈な土管が小川に埋め込まれていたのだ。