原爆と竹槍64話
少年たちの優しさに思わず涙ぐむ雪。
「じゃあ、昨夜から何も食べていないんでしょう」
雪が首肯くと、少年はポケットから小さな包丁を取り出すと、魚籠の中に手を入れ、金色に熟れたマクワウリを一つ取り出し、包丁で皮をむき二つに切り、雪と鈴子に渡した。
「ありがとうございます」
雪の目から、感謝の涙が溢れた。
鈴子は、爪を食べながら言った。
「美味しい、こんな美味しい瓜を食べたのはじめてよ。お兄ちゃん、ありがとう」
言って、可愛くお辞儀した。
雪は、明と結婚した時から、田畑で、四季の野菜を栽培し、近所の八百屋に売り、生活の足しにしていた。
夏は、西瓜や少年がくれたウリ、そして、カボチャ、茄子、など様々な野菜を栽培していたで、鈴子には、時々、マクワウリを食べさせていたが、よほど美味しかったようだ。
鈴子の喜びように、少年は、嬉しげに尋ねた。
「そんなに美味しい?」
「うん、すごく美味しいわ」
鈴子が両手を大きく広げた。
「そう、喜んでくれて、嬉しいよ」
「何も食べれるものがないのに、美味しいウリを食べさせて頂いて、なんと礼をいったらいいのか分かりません」
雪が感謝すると、少年が言った。
「礼などいいです。それより、ウリだけでは足りないでしょう。ここで、待っていてください。麦のご飯ですが、すぐ、持ってきます。お前、すぐ、帰って持って来い」
命じられた少年は、雪が引き止めるのも聞かずに駆け出し、待つ間もなく戻って来た。
「美味しいウリを頂いた上に、おにぎりまで頂いて、本当にありがとうございます」
「いえ、お互い様ですからお気遣いは無用です。ところで、どちらまで行くのですか」
「明日の朝までに、長崎へ帰らないといけないのです」
「ええ!長崎ですか、今から間に合いますか?」
少年が驚いたように言った。
「ええ、何が何でも帰らなければならないのです」
「それを、あの犬たちが邪魔したんですね」
「危ない所を助けて頂いた上に、美味しい、瓜とおにぎりまで頂いて、本当にありがとうございました」
少年たちに別れを告げ、先へ急ぐ雪だったが、少年たちの深い情けにより、空いていたお腹も満たされた。