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原爆と竹槍  作者: サイシ
62/93

原爆と竹槍62話

 老人は、急いで家に引き返すと、おはぎを持ってきて、雪に渡した。

 空腹で倒れそうになっていた雪には、救いの手であった。

 老人に別れを告げた雪は、老人の悲しみを考えると、気も滅入ってしまう。

 しかし、一刻も早く夫も元に帰りたい雪には感傷に浸る間はない。

 下関に着いた雪と鈴子を見た少年の祖父は、その姿に泣き、話を聞いてまた泣き、養生していけというが、夫が待っていると断ると、魚の乾物をたくさん持たせてくれた。

 やがて、福岡県の八幡市を通り越し、飯塚に着いた頃には夜になっていた。

 ここまで帰ってきたら、明後日の朝には、夫の元へ帰れると一安心し、泊まる橋を探すと簡単に見つかった。

 雪は、先客の被災者は居ないか、堤防から橋の下を覗いたが、幸い誰も居なかった。

「よかった、誰も居ないわ」

 早速、雪は自転車から鈴子を降ろし、橋の下へ自転車を運んで行った。

 突然、わんわん、わんわんと、数匹の犬が吠えながら、雪に襲いかかってきた。

「きゃー!」

 恐怖の悲鳴を上げた雪は、自転車を捨てて堤防を駆け上がった。

 犬たちは堤防の下から、六つの目を光らせ、雪を睨みつけ、牙と剥き、吠える。

 その恐ろしい声と目に雪は震え上がった。

 だが、自転車を取り戻すまで、この場所から逃げることはできないのだ。

 雪と犬たちとの睨み合い、否、犬に睨まれていた雪が言った。

「自転車には、私たちの食物があるの。その食物が取れないと、鈴子に食事をさせられないから、自転車を取りにいかせてください」

 泣きながら、雪は犬たちに懇願していた。

 だが、犬達は、一層、牙を剥き出し、今にも堤防を駆け上がりそうな気配を見せる。

 しばらく鳴き声がしないので、目を凝らして見ると、犬が魚の乾物を食べていた。

 雪の悲しみを鈴子が感じとり泣き出すと、犬たちがまた吠える。

(誰か助けに来てください。だれか、この橋を渡ってください)

 恐さに震えながら、雪が心の中で助けを求めるが、誰も現れない。

 雪と犬たちのにらみ合い、いや、犬たちに睨まれても、逃げるに逃げられず恐怖に慄く雪と鈴子との対峙が続いた。

 それは、雪ろ鈴子にとって、堪え難いほどの恐怖の連続だった。

 命が縮むような恐怖の長い夜が明けた。



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