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原爆と竹槍  作者: サイシ
52/93

原爆と竹槍52話

「あなた、長崎市も危険です。今すぐ、どこか山の中へ逃げてください!私もすぐ帰ります。そうだ、電報を打ちます」

 雪は急いで、鈴子を自転車に乗せた。

「お婆ちゃんを探さないの?」

 鈴子が心配げに尋ねた。

「お父さんの所へ帰るのよ」

「どうして?」

 今、身体の痛みに堪えられているのは、祖母に会えるという希望があるからだ。

 それなのに、探さないと言ったら、鈴子の我慢の糸が切れるかもしれない。

「お婆ちゃんの家がないでしょう。きっと、お婆ちゃんは、私たちの迎えが遅くなったから、待ちきれずに長崎へ引っ越したのよ。今頃、お婆ちゃんとお父さんは、鈴子が早く帰ってこないかなあと、首を長くして待っているわ」

 真実が言えずに、雪は嘘を付いた。

「本当、それなら早く帰りたい」

 雪は母親の生死を何が何でも確かめたいと思っていた。

 万が一、見附けだせなくても、今日一日は、母と近所に住む母の姉、そして、幼友達、親しくしていた近所の人たちの冥福を祈り、明日、長崎へ出立しようと先程まで考えていた。

 しかし、夫の危機が迫っている思うと、それが出来なくなった。

 雪は、黙祷をしてから、自転車に乗った。

 だが、母が眠るこの焦土と化した場所を離れるのは死ぬほど辛い。

 雪の目から大粒の涙が流れ、焦土を濡らした。

 だが、何時までも悲しみに浸っているわけには行かない。

「鈴子、また、目を閉じていなさい、開けてもいいというまで」

 はい、と鈴子は素直に目を閉じたが、その顔にはいたいたしい程の水泡ができていた。

 雪は鈴子の我慢している顔を見ると、可哀相で堪らない。

 しかし、今の雪にはどうする事も出来ないのだ。

 雪は、その辛さを必死に抑え、瓦礫と化した道なき道を通ると、来た時と同じように、無惨な遺体が次から次へと現れた。

 その人々の無惨な姿を見た雪は、泣けるものなら大声で泣きたかった。

 やがて、雪が、自転車がパンクした所へ戻ってきたが、道の両側に立ち並んでいた家が焼けて通れなくなっていた。

 仕方なく、雪はパンクを修理した広場に戻り、どの道を通ったら、火事を避けて帰れるかを探した。

 だが、その目に映ったのは、櫓が跡形のなく消えた生家の方だった。

(母さんの生死も確かめずに帰る私を許してください。戦争が終わったら、必ず、親子三人で参りますから、淋しいでしょうが、その時まで待っていてください)

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