原爆と竹槍49話
叫んだ鈴子が逃げようとする。
「何が恐いの?」
「母さんの顔が恐い!」
鈴子が恐そうに言った。
雪は自分の顔が鈴子と同じになっていることに気づいた。
「この顔は火傷した母さんの顔よ」
「本当?」
鈴子が、そっと、母親の顔に触れた。
「痛い!」
鈴子がそっと、母親の顔に触れた。
「痛い、鈴子も痛いけど、お婆ちゃんのように、我慢しているわ」
鈴子は雪が言ってたを忘れていなかったのか、健気に言った。
「鈴子が我慢しているんだから、母さんも我慢するわ」
言った雪の目から涙が出た。
「母さん、痛いの?」
鈴子が心配そうに言った。
「鈴子が我慢してくれると言ってくれたので、嬉しくて泣いたのよ」
「嬉しくても泣くのね?」
子供は、自分が嬉しくて泣いても、それが嬉し泣きだとは気づいてないのだ。
「早く、おばあちゃんの所へ行こうよ」
鈴子が急がす。
「じゃあ行きましょう」
雪が中区に目を向けた。
「あつ!」
高い櫓が消えていたのだ。
そして、ここから見えていた中区の家々が跡形もなく消え、所々に、黒い煙が立ち上がっているだけだった。
「爆弾で、母さんが殺された!」
雪が悲痛な叫び声を上げて泣き伏せた。
「なぜ、泣いているの?」
鈴子が痛みに堪えながら尋ねた。
「お婆ちゃんの家が無いのよ」
「早く、おばあちゃんの家を探しに行こうよ、母さん」
鈴子は、祖母の所へ行けば、痛さが取れると思って急かす。
もし、パンクしなかったら、雪と鈴子は確実に即死していた。
自転車を取りに行くと、池の水が半分ぐらいになり、自転車が横たわっていた。
池から自転車を引き上げる雪の火傷の足は、水で飛び上がるほどの痛みが走る。