原爆と竹槍47話
「母さんの家の近くへ帰ってきたのにパンクとは」
苦労して、やっと、母親の元に帰ってこれたと安心した途端のパンクである、それだけに、雪の落胆は大きかった。
しかし、それを嘆いても何の助けにもならない。
雪は、自転車を押し歩きだしたとき、自転車のタイヤが道路の段差や小石などで、がたがたと鳴り出した。
このまま、無理に押して進むと、タイヤとチューブが損傷し、二度と自転車に乗れなくなり、長崎まで歩いて帰ることになる。
しかし、怪我人を長崎まで歩いて帰らせることは不可能である。
例え、少し歩ける程の怪我だったとしても、長崎まで帰るのに、何十日もかかっては食料が無くなり、全員が飢え死にするのは確実である。
自転車は、雪の母親と雪と鈴子の命の綱でもあるのだ。
雪は、パンクを直すことが先決と考え、修理に適した場所を探した。
修理はまず、チューブのパンク箇所を見附ださなければならない。
そこで、チューブに空気を充満し、そのチューブを水の中に入れ、チューブを手で圧迫すると、パンクしたところから、空気が泡のように水中に吹き出す、
パンクの場所に小さいチューブ片を貼付けるのだ。
水が無くては、パンク修理が非常に困難なため、水を探していると、学校の校庭より遥かに大きい広場があり、その中に小さな池があった。
雪は、自転車を池の傍へ運び、修理を始めたが、首に掛けた袋が掛け時計の針のように揺れて作業の邪魔をする。
袋には、お金など大切な物を入れてあるため、青草の上で楽しそうに遊んでいる鈴子を呼び寄せ、その首に袋をかけ、パンクの修理を始めた。
やがて、パンクの修理を終えた時、自転車が倒れ池に沈んだ。
雪が自転車を引き上げようとした時
「キャー!」
鈴子の悲鳴が聞こえた。
雪は、自転車を放置し、鈴子の所へ駆けつけた、
「何があったの!」
聞くと、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなった鈴子が指差した。
みると、一メートル以上もある大きな蛇が鎌首を持ち上げ、鈴子を睨んでいた。
「しーしー」
蛇が恐い雪は、蛇を追っ払うような仕草をしたが、蛇は逃げようともしない。
雪は、動けない鈴子を抱き上げ、急いでその場から逃げ出し、ふと、前方を見ると、高い櫓が見えた。