原爆と竹槍43話
その目に、空高く飛ぶB二十九が映り、思わず目を閉じて言った。
「一時でも、私が親しみを込め見ていたことを恥ます」
やがて、大竹市の中心から、二キロほど通り過ぎたとき、日が沈み、美しい夕焼けが空に現れ、一時、雪を子供の日に帰らせてた。
一夜の宿を探す雪の目に、夕焼けに染められた橋の欄干が見えた。
幸いなことに、橋の下に先客は居らず、落ち着いた気持ちで夕食の用意が出来た。
食事を始める前に雪が言った。
「鈴子、明日の朝の食事は食べられないから、今夜はお腹いっぱい食べなさい」
「なぜ、食べられないの?」
「明日の朝は、一時も早く、お婆ちゃんの家に着きたいので、食事の用意をしたり、食べたりする時間はないからよ」
「明日は、お婆ちゃんに会えるんだ」
鈴子は飛び上がって喜んだ。
「だから、早く食べ、早く寝なさいね」
鈴子は、早く食べれば、早くお婆ちゃんに会えると思ったのか、急いで食べた。
食事が終わると雪は鈴子が着ていた服を脱がせて眠らせると、自分も服を脱ぎ、洗濯して干した。
故郷を間近いにした雪は、安心感から、すぐ、眠ることができた。
遠くから、鶏の鳴き声が聞こえてきた。
明日、祖母と会えるんだと、小さな胸を一杯に膨らませて眠っていた鈴子は、鶏の小さな鳴き声を敏感に感じ取り目を覚ました。
「母さん」
鈴子が雪の身体を揺すりながら呼んだ。
「あら、もう、起きたの」
雪は目を瞑ったまま、鈴子を抱き寄せた。
暖かい母の胸に抱かれた鈴子は、言うのを忘れ、嬉しそうに目を閉じていたが、急に雪の胸から抜けだして言った。
「早く、お婆ちゃんのところへ行こうよ」
雪は鈴子を引き戻して言った。
「でも、まだ、暗いから自転車を漕げないわ」
雪が残念そうに言った。
「なんだ、起きて損したわ」
「だから、もう、少し寝ましょうね」
言って、何気なく東の空を見た。