原爆と竹槍41
「あなたの家も焼けたのね」
「いえ、私は旅の途中、この橋の下で一夜を明かしたものです。この度は、大変なことになり、お慰めの言葉もございません」
「八幡市は、一度、空襲されたから、もう、空襲されないと思っていると、空襲されたので、何も持ち出すことも出来ずに逃げてきましたが、これからの生活を考えると、生きて行く気力も無くなります」
「お気持ちは察するにあまりあります」
「火から逃げられた私たちは、町の外側の家に住んでいたんですが」
「じゃあ、町中の人たちは、どうなったのでしょうか」
「みんな、火に包まれて死んだでしょう。もし、あなたが町中で一夜を明かしていたら焼け死んでいた。この幸運を大切にしてください」
「はい、ありがとうございます」
横に居た鈴子が雪を呼んだ。
「母さん」
「何?」
「お腹すいた」
子供は、周囲の嘆きが読めない。
鈴子の言葉を聞いた老女が言った。
「可哀相に、お腹がすいたんだね。でも、私には食べ物がないのでごめんね」
老女は、我が身のことのように哀しんだ。
「いえ、食物はあります。もし、よろしかったら、一緒に食べてください」
雪は、急いで食事の用意をしようとした。
「それは駄目です。その食物は、あなたの旅に必要です。どうか、私たちのことは捨て置いてください」
老女が断った。
「どうか、お気になさらないでください」
雪は、飯盒でご飯を炊き始めた。
「旅は、どこへ行くのです」
老女が尋ねた。
「広島です」
「急用が出来たのね」
老女は察しが良い。
「はい、母親が米軍機に撃たれて大怪我したんです」
「それは」
老女は絶句した。
「その母を、広島から長崎へ連れて帰るための旅です」