原爆と竹槍4話
言った明の脳裏に子供たちの姿かんだ。
その姿とは、半年以上前、長崎市上空を、B二十九が白い飛行機雲を引きながら飛ぶのを見た子供達は、顔を真っ青にして、防空壕に駆けこんだのだ。
だが、最近は、防空壕へ逃げ込まないばかりか。警戒警報が鳴るたびに、家から飛び出してきて、米軍機を憧れや親しみの眼で見るようになっていた。
特に印象的だったのは、八歳ぐらいの少女が背負った三歳くらいの幼児が、米軍機に手を振っていたことだった。
(大人の安心感が子供に伝わり、子供の心の中では、もはや、米軍機は、恐ろしい敵機ではないのだ)
米軍による酷い殺され方をした日本人を見たことがない明には、長崎市を攻撃しない米軍を心の底から悪とおもえないようになっていた。
「米軍も人の子であり親だから、無駄な破壊や殺しをしないんだ」
「そうだわね。無抵抗の人間でも平気で殺す鬼より恐い米軍だとの噂を聞いたけど、米軍も人間だったのよ」
「そのようだね」
「だから、米軍に抵抗しない町は、絶対に空襲されないのよ」
美絵は、また、空襲されないと言って、自分を安心させていた。
「空爆しないのも米軍の高等な作戦かもしれないよ」
明がふと、気付いたように言った。
「作戦?」
「市民を味方につけ、戦わず、殺さずして勝つは、戦いでも最も有効な戦術です」
「確かに良い作戦ね」
美絵が感心したように言った。
「そうだろう」
明が得意そうに言うと、美絵が言った。
「じゃあ、あの噂は嘘かしら」
「あの噂?」
「東京大空襲の時の米軍機は、都を数十機で取り囲み、都民が逃げられないよう周りを囲み爆弾や焼夷弾を投下し、都を焼け野原にした上、多くの都民を焼死させたことよ」
「あの残虐な噂だね」
「そうよ、でも、長崎市の上空を飛ぶ米軍機を見ていると、とても、あの噂が本当とは思えなくなったわ」
「僕の妻が言うには、米国は民主主義の国だから、僕らと同じような人民が政治を行う。だから、無抵抗な人間を虐殺しろ等と、絶対に命令しないと言うんだよ」
「もしもよ、私たち人民が命令する立場だったら、無抵抗な人を殺せなどと、絶対に命令しないわ。木村さんは?」
「僕だってしないよ」
「所で、民主主義って何?また、奥さんは、何処で知ったの?」