原爆と竹槍39話
広子が駆け寄ってきた。
「言うのを忘れていたけど、米軍の戦闘機が現れたら、いえ、米軍機の音が聞こえたら、すぐ、隠れてね」
「はい、でも、なぜ?」
雪は有明海の事を話した。
「そんなことがあったの」
広子が恐そうに言った。
「だから、気をつけてね」
「はい、気を付けます」
「じゃあ、無事、阿蘇へ帰れることを祈っています」
広子を後に、雪は八幡に向かった。
太宰府に入って、雪の方向感覚が乱れはじめ、何度も道を間違い、何時の間にか、山中に迷い込んでしまった。
しかし、幸いにも、通りかかった地元の人の導きにより、長崎街道に出られ、八幡市を目前にしたときには、まだ、日は沈んでいなかった。
雪は迷った。
遅れを取り戻すために先へ進むべきかを。
だが、雪は八幡市の広さを知らない。
もし、八幡市を通り抜け出来ない間に日がくれてしまえば、町中で一夜を明かすしかないのだ。
だが、それには、米軍機の空爆を覚悟しなければならないのだ。
雪は前進するのを諦め、川と橋を探したが見つからないため、一キロほど後戻り、小さな橋の下で一夜を過ごすことにした。
だが、橋の下の広場は、雪と鈴子がやっと寝られるほどの広さしかなかったので、自転車を橋の上に置き、食事に必要な物だけ持ち橋の下へ降りた。
雪は食事の用意をしながら、鈴子に尋ねた。
「鈴子に作った父さんの椅子、乗り心地はどうだった?」
「母さんの背中は柔らかくて気持ちいいけど、椅子は堅かったわ」
「じゃあ、もう、乗りたくないのね」
「堅いけど乗りたいわ」
「どうして?」
「前がよく見えるし、風が当たって涼しいから気持ちいいわ」
鈴子が小さくても背負っていると疲れが溜まる。
「そう、じゃあ、明日からも、椅子に乗ってね」
鈴子が小さくても、背負っていると疲れがたまる。
「うん、分かったわ」
「ありがとう」
雪は鈴子を抱きしめてほおずりをした。
「母さん、お腹すいたわ」
「今、炊き始めた所だから、辛抱するのよ」