原爆と竹槍38話
雪の運命は電報で変わった。
長崎を出た日だけ平穏だったが、それ以後は、身の毛もよだつような恐怖の連続だった。
米軍機の飛行音は、雪に恐怖を植え込んだ。
そのため、どんな小さな飛行音も聞き逃さないようになっていた。
数時間後、その飛行音が聞こえたため、雪は目覚めた。
雪は、橋の下から外に出て、空を見上げた。
その脳裏に、畑で作業した過ぎし日、親しみを込めて米軍機をみている自分の姿を映しだしていた。
(なぜ、無抵抗の人間を殺すようになったの)
雪は、何時も、このことが頭に浮かび、米軍機の空襲を見かけるたびに、問いかけたが答えは帰ってこなかった。
その思いを打ち破るように、甘木市の空が真っ赤に染まったのと同時に、激しい爆発音が伝わってきた。
(また、無抵抗の人が多く殺された)
身震いする雪、多くの被害者のことを考えると、雪は眠る気になれなかった。
だが、太陽は地上で如何なる事が起ころうとも、時間どおり、朝を告げるのだ。
一睡も出来なかった雪が軽い咳をした。
「お早うございます」
広子も、明日からの事を考えると熟睡できなかったのか、雪の小さい咳で目覚め、互いに初めて、相手をよく見れた。
広子親子は、焼出されて間もないことから、衣服の汚れは、雪と鈴子と同じくらいだった。
「よく眠れました?」
雪が心配そうに言った。
「はい、雪さんのお陰で、よく眠りました」
「そう、私は先を急ぐので、自転車を漕ぎながら食事しますので、一緒に食事する事ができませんが、それでいいですか」
「はい、どうか早くお母さんを安心させて上げてください」
その間、三人の子供たちは、自分たちが置かれた厳しい状況をしらず、楽しげに遊んでいた。
「じゃあ、私はお先に出掛けます。鈴子、皆さんにお別れの挨拶をしなさい」
鈴子は名残惜しそうに、二人の子供に手を振った。
「鈴子、今日からは、父さんが作ってくれたこの椅子に座るのよ。さあ、乗せるわよ」
雪は鈴子を椅子に乗せ出発しようとしたが、何を思ったのか急停車した。
「広子さん」
「何か?」