原爆と竹槍37話
ご飯が炊きあがると、雪は、おにぎりを作った。
「さあ、召し上がれ」
雪は作ったおにぎりを三人にあげた。
「ありがとうございます」
広子は涙を流して言った。
しかし、雪と鈴子が食べないのを広子が心配して言った。
「私たちだけで頂くことは出来ません。どうか、一緒に食べてください」
「心配しないで食べてください。私たちは、あなた方が食べ終わった後で炊きます」
「そうでしたの、じゃあ、喜んで頂きます」
広子親子は美味しそうに食べた。
その間に、雪は自分たちのご飯を炊いていると、食べ終わった広子が来て言った。
「一昨日の夜から、何も食べていませんでした。だから、この川の水を飲んで我慢していたのです。でも、雪さんのお陰で、飢え死にしなくてもすみました」
「それはよかった。でも、広子さんの実家は阿蘇でしょう。実家まで、本当は幾日ほどかかるの?」
広子の子供たちに聞こえないよう、小さな声で尋ねた。
「子供には嘘を言ったけど、三日はかかります」
「そう、じゃあ、多くは上げられないけど、さつま芋でよかったら差し上げるわね」
広子の顔が輝いたが、すぐ、哀しそうに言った。
「でも、広島は遠いのでしょう。さつま芋を頂いたら、あなたが飢え死にするかもしれない。だから、私が飢え死にしても、頂けませんわ」
「大丈夫よ、だって、母親の家に着けば、食べるものがあるもの」
しかし、広子は、なかなか承知しなかった。
広子を安心させるために、鈴子のイスに積んでいたさつま芋を見せながら言った。
「広島まで、後、二三日ですから、こんなにさつま芋は要らないわ。だから、半分だけ、広子さんに上げる」
雪は暗闇でさつま芋を半分に分け、広子に渡した。
「こんなに頂いて、本当にいいんですか」
広子が申し訳なさそうに言った。
「いいのよ。私たちのご飯も炊けたから、これから食べます。どうか、明日からの苦しい旅に負けないように、早く寝てください」
雪が広子の身体を気遣って言った。
「じゃあ、好意に甘えます」
雪と鈴子が食事を終わらせると、広子の子供たちが鈴子に遊ぼうと誘いにきたので、雪と広子は眠れなくなり、互いに自分たちの過去を語りあった。
やがて、遊び疲れたのか、子供たちは身体を寄せ合って眠っていた。