原爆と竹槍32話
「もし、幕府が天皇に対し、対決姿勢を明らかにしたら、幕府以外の士農工商の全員が天皇側に付くことが分かっていたからです」
「確かに、今度の戦争で、天皇陛下が反対を表明していることを国民が知っていたから。国民は戦争を拒否し、それが通らない場合は、政府や軍部と対決したでしょうね」
「そして、戦争は回避されたでしょう。しかし、天皇陛下が反対を表明しても、報道機関が報道をしなければ、国民が知ることは不可能です。報道機関が何故、報道しなかったのかといえば、報道機関は利益団体であるため、常に権力者の味方をするのです」
「だから、何時も、政府や軍部が不利になるような報道をしないのですね」
「そうです。また、報道機関の中には、政府や政治家、軍部の有力者たちの親族が多数居ります」
「それで、偏った報道をしたり、戦争を煽っていたんですね」
「戦争をしない、これは、歴代の天皇のお考えだと思います。なぜなら、武力で作った鎌倉幕府から徳川幕府までの為政者は、歴代天皇の私権さえも奪おうとしました。しかし、天皇は戦いませんでした。なぜなら、戦えば、多くの民を犠牲にするからです」
「何時も、国民の味方であったために、国民は天皇をお慕い尊敬し、命も捧げても悔いがないと考えているのは、天皇のお心を民が感じ取っていたのですね」
「そうだ、民から見ると、いつも天皇は、その政権の対立軸に居られ、民の幸せを願って居られるのだ」
「驕る心は民に苦難をもたらす。その驕りを戒めているのが、天皇の権威であることが今、分かったよ」
「私も、天皇の存在が如何に大切であるかが、今、分かった」
「このことからも、天皇陛下を侮る政権は、国民に苦難を強いる独裁政治であると証明しています」
黙って聞いた老人が声を小さくして言った。
「そんな話を大きな声で言っていると、殺されるよ」
すると、一人の老人が言った。
「私は、何時、殺されてもいいよ。なぜなら、私には一人の身内も居ないからだ」
「私も」
「じゃあ、みんな、孤児か、いやみなし爺か」
自嘲するように言った。
「この先、生きていても、何の希望もないから、殺されても平気だ。だが、騙されて死んで行くのは無念だ」
「この戦争の原因は何なんだ?」
「政府内の有力者や大会社の権益を護る為の戦争だという噂がある」
「権益とは?」
「日本を恐れた欧米は、日本の勢力を封じるために、様々な条件をだしてきた。その中に、政府や軍部の有力者に関係ある大会社の権益が失われる条件があったので拒否したそうだ。そこで米国は報復措置として、石油の禁輸制裁を行ったのだ。石油は日本の活力の中心だ。石油が無いと日本は成り立たないため、米国に対して、宣戦布告したのだ」