原爆と竹槍31話
「私は遠い所へ旅する途中なので、十分な事をできませんが、昼食ぐらいは作れますから、少しの間、待っていてください」
言うなり、雪は、筵の横に放置された鍋でご飯を炊き始めた。
「旅の途中なのに、私たちに食事を作って食べさせてくれるなんて、なんと、お礼を申してよいか分かりません」
一人の老人が正座し礼を言った。
「どうか、お心使いはやめてください。所で、皆さんご家族ですか?」
「いえ違います。家族を失った一人ぼっちの者の集まりです」
別の老人が答えた。
「お慰めの言葉もありません」
言って、雪は泣いた。
「私たちのために、泣いてくれるなんて嬉しいです」
三人目の老人が言って、目の涙を拭いた。
今日まで、老人たちは、互いに弱気を恥と思い、本音を語らずにいたが、雪の出現により、閉じていた心が解放されたのか、一人が言った。
「我々の不幸は、全て戦争が原因だ」
「そうだ」
別の一人が同調した。
すると、最後の一人が東に向かって一礼してから言った。
「天皇陛下にあらせられましては、戦争に反対されていました」
「ええ!それ本当ですか?」
「そうです」
「天皇陛下が反対したのに、なだ、戦争になったのですか」
老人たちは、天皇や天皇陛下と言う言葉を使う時には、必ず、東に向いてお辞儀をしていたことから、老人たちが、如何に天皇陛下を大切に思っているかが、よく分かった。
「人は強大な権力を握ると、その驕りから、自分が一番、偉いように思え、果ては、自分は神だと思うようになります。まさに、今の政府と軍部の上層部はそれにあたり、自分が天皇陛下より偉いと思うようになって、天皇陛下のお言葉を無視したのです」
「なぜ、そんな事ができるのですが」
「天皇陛下には、権威はあっても、権力と決定権がないのです」
「権力を持っていない?本当ですか」
「今日までの歴史が、それを証明してます」
「歴史?」
「確実な歴史によると、鎌倉幕府から徳川幕府は、天皇の権力を認めていませんでしたが、それを国民に知らせないようにしていました」
「なぜ?」