原爆と竹槍30話
(これが空爆なの、とても、逃れようがないわ)
町は彼方此方に爆弾による大きな穴が開き、焼け焦げた柱の残骸が横倒しに倒れ、とても、人間が住める状態ではなかった。
(これが本当の戦争なんだ)
雪の脳裏に、長崎の穏やかな風景が映った。
(なぜ、長崎は攻撃されないだろう。手向かわなければ、攻撃をうけないって本当?なら、佐賀市は反撃したのかしら)
雪は何が何だか分からなくなった。
長崎だけでない、佐賀市は無論、全国の町に米軍機と戦える武器は何一つ無かったが、米軍機は、一片の罪悪感も抱かず、家もろとも無抵抗な家族全員を殺傷していた。
やがて、荒廃した佐賀市を通り抜けたとき鈴子が言った。
「母さん、お腹がすいた」
「ごめんね」
佐賀平野で、米軍機の襲撃を避けるためと、佐賀市の爆撃跡を見ての恐怖や、無力感などにより、昼食を忘れていたのだ。
早速、雪は清らかな水が流れる橋の下を探したが見つからないため、水がある所を探していると、小さな森を囲むように堀が作られ清らかな水が流れていた。
森の一方には道があり、入り口に鳥居が立っていたことから、神社を囲む森であることが分かった。
鳥居の前へ行った雪は、一礼して中へ入っていった。
神社には、神主が住む家はなく、静まり返っていた。
雪は、自転車を停め、背中から鈴子を下ろしたとき、神社裏から声が聞こえた。
「お腹すいたよ」
その声があまりにも弱々しいので、雪は、神社の裏側を覗いてみた。
すると、そこには、所々が焼け焦げたぼろぼろの衣服を纏った三人の老人と二人の子供が力つきたように、破れた筵の上に横たわっていた。
初めて見る戦災被害者の哀れな姿に、雪は涙し、何とか助けたいと思った。
「どうなさいました」
「空腹で家が焼かれ、行く所がないので、ここにいるんです」
一人の老人が気の抜けた声で答えた。
「お気の毒に、じゃあ、何も食べていないのでしょう」
みんなが頷いた。
雪の脳裏に、早く来てと母親の苦しむ姿が写った。
しかし、明日の命の保障すらない人たちを、このまま、放置して、この場を立ち去ることができない。