原爆と竹槍3話
国家による厳しい言論統制と米軍機の空爆により、都市間の交流が遮断されたため、益々、国民は情報を得難くなった。
その為、新聞の購読は無論、ラジオを買うほど裕福でない明は、出会う人から出来るだけ多くの情報を聞き取り、その情報を自分の指針としていたのだ。
「もしもよ、米軍が長崎市を空襲するなら、とっくにしている、空襲しないのは長崎市が戦場でないからだと、会った多くの人達が小さい声で言っていたからだわ」
「なぜ、戦場でないのですか」
「だって長崎市では、日本軍と米軍が戦っていないもの」
「なるほどね」
「戦場とは、互いの軍が戦い合って勝敗を決する場所でしょう」
「確かにそうだね」
「戦争は、抵抗もしない都市や人間を殺すのが目的でしょうか?」
美絵が勿体ぶって尋ねた。
「それは、違うでしょう」
「だから、米軍は長崎市を空襲しないのよ」
「しかし、東京や大阪などが空襲されていたことを考えると、必ずしも、安心することが出来ませんね」
「それはそうだけど、私が会った人の意見だけど、東京や大阪は戦場だったのではないかと推測していたわ」
「成る程、大都市なら我が軍の戦闘機や高射砲で迎撃したという推測は成り立つね」
「そうでしょう。でも、今まで話したことの多くは、会った人の意見なのよ」
美絵は、自分が話すことの多くが、自分の考えでないと断った。
「僕の話も、多くは人から聞いたものを自分なりに、解釈して話しているので、必ずしも正しいこととは言いきれません」
「それは、みんな同じだと思うわ」
「長崎県が戦場にならないのは、米軍機を攻撃する武器が無いかもしれないね」
「そうね、長崎市民の武器といえば、竹で作った護身用の竹槍だけですものね」
「竹槍で高い空を高速で飛ぶ鉄の固まりに敵対しょうとしても、それは、象に襲われた蟻以下で、届かないばかりか、疵一つ付けられないよ」
「でも、何で武器が無いと分かったんでしょう」
「それは簡単だ。なぜなら、敵国の飛行機が上空を我が物顔飛び交っているのに攻撃しない国など何処にもないよ」
「なるほどね」
「また、米軍機が長崎市を空爆しても、何の利益もないよ」