原爆と竹槍27話
老婆が静子に言い聞かせた。
心を鬼にして言った雪だったが、静子が可哀相で泣かずにいられなかった。
「さあ、後は私に任せ、お母さんに所へ行きなさい」
老婆は雪の心情を察し、急かすように言った。
「はい、有り難うございます」
雪はそっと静子を離し、鈴子の手を取り、老婆の家を出ようとしたとき、鈴子が、静子に手を振った。
すると、静子が泣きながら、手を振って見送る。
その悲しみが鈴子につたわったのか、鈴子の目に涙が浮かんだ。
老婆の家を後をした雪だったが、幼い静子のことを思うと涙が止まらない。
やがて、雪の行く手に、一軒の家が現れた。
雪は、その家に入った。
「ごめんください」
はい、声とともに中年女性が出てきた。
「私は長崎から広島へ行く者ですが、ここへ来る途中、一軒の家が米軍機に空襲され、母親は即死し、静子という少女が一人、破壊された家路で泣いていました」
「ええ!良子さんが死んだの」
女性は、飛び上がるほど驚き、大声をだして泣いた。
「静子さんのお母さんをご存じだったのですね」
「はい、仲の良い友人でした」
「そうでしたの」
「可哀相な良子さん」
女性は手を合わせ冥福を祈った。
「悲しみの中、こんなことを言うのは心苦しいのですが、私は静子さんの面倒がみられませんので、一人暮らしの老女に後を託してきました。老女は快く引き受けてくれました。でも、老女は何分にも、眼や耳が不自由なので、静子さんと老女が心配でなりません。もし支えがなければ、時々、見舞って頂きたいと思って、お願いに上がりました」
「あなたは、先を急ぐ身なのに、よく報せてくださいました。どうか、心置きなく広島へ行ってください」
「もう一つお願いがあります」
「何でしょうか」
「何時の間にか、道に迷い、佐賀市へ行く道がわからなくなりました」
「この道を通って行っても佐賀市に着きますが、遠回りになりますので、あの道を通って行き、交差点で右に行くと長崎街道にでます。時々、道の分かりにくい所がありますがその時は、誰かに尋ねなさい」
女性は手振り身振りで、道を詳しく教えた。
雪は連れを取り戻そうと走ったが、鹿島市から佐賀市入ったとき、夜がきた。