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原爆と竹槍  作者: サイシ
22/93

原爆と竹槍22話

「何が恐いの」

「何でもないから、静かにしていなさい」

 小さい声で言うと、鈴子が頷いた。

 戦闘機は、獲物を射殺したかどうか確かめるように、女性が飛び込んだ海面の上を何度も旋回していたが、女性の姿が浮かんでこないのを確かめると、どこかへ飛んでいった。

 美しい有明海を血に染めて。

 恐怖で動けなくなった雪は、放心したように立っていた。

 すると、また、戦闘機が現れ、死体を確かめるように旋回していたが、女性の姿がないので、どこかえ飛び去った。

 雪は、この残酷な現実を目のあたりにし、自分の母親がどんなに恐かったかを知り、恐怖に慄いた。

(武器を持たない貝取りの女性が撃ち殺される。私が長崎市で抱いたいた米軍とは余りにも違いすぎる)

 雪は戦争の恐さ、米軍の恐ろしさを初めて知ったのだ。

 恐くて、その場から離れられない雪だったが、戦闘機に撃たれた女性が生き返ることを願い、女性が消えた場所を見続けていた。

 しかし、女性は現れないばかりか、女性の姿を隠すように、満ちてきた潮が少しずつ干潟を沈め、やがて、岸まで到達した。

 やっと、恐怖から立ち直った雪は、殺された女性が、どこの誰とも知られずに死んで行く悲しさを考えると、可哀相で黙って立ち去ることが出来なくなった。

「綾、どこへ行ったの!」

 雪は、声が聞こえて方へ自転車を走らせると、杖を付いた老女が、綾、どこへ行ったのと連呼しながら歩いていた。

 雪を見つけた老女が言った。

「綾を見かけませんでしたが」

 雪は、老女が探している女性が、干潟で撃ち殺された女性のように思えた。

「綾さんの年と、どんな服装をしていたか教えてください」

「年は三十、紺の衣服を着ています」

 戦闘機に撃ち殺された女性だと思った。

 だが、老女の悲しみを考えると、この場で、この老女一人に話すのは余にも酷だと考えたのだ。

「お婆さんは、綾さんを一人で探していたのですか」

「はい、そうです」

「ご家族は居ますか」

「夫が家に居ます」

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