原爆と竹槍21
ご飯を炊く時間はない。
雪と鈴子は、さつま芋を山の谷間から流れでる清水で洗って食べると、すぐ、走りだした。
やがて、雪が多良町と鹿島市の中間に差し掛かったとき、急に米軍機らしき飛行音が聞こえてきた。
米軍機に慣れている雪は、気にせず、自転車を漕いでいると、突然、飛行音ではない、人を恐怖に陥れるような激しい音が聞こえてきた。
驚いて、戦闘機をみると、戦闘機が有明海に向かって、機銃掃射をしていた。
その銃撃音に恐怖を感じた雪は、自転車を降り、大きな木の下から、有明海の干潟を見て身が凍るような思いをした。
干潟には、紺色の服装をした一人の女性が、戦闘機の攻撃から逃れようと、岸に向かい走ろうとしたが干潟に足を取られ、もがいていた。
すると、戦闘機は、女性が岸へ行けないよう、女性の前方に激しい機銃掃射をした。
雪は、恐さを忘れて叫んだ。
「やめて!」
だか、戦闘機に気づかれたのではないかと、木の幹に隠れた。
女性は、撃たれまいとして沖の方に逃げる。
戦闘機は旋回すると、女性の後方へ機銃掃射をする。
その様子が、雪には、戦闘機が女性を逃がさないように、意識的に沖の方へ追いやっているように見えた。
女性は戦闘機の襲撃から身を守ろうと、知らず知らずに沖の方へ追い込まれ、やがて、干潟と海水の境目に来た。
戦闘機は、女性を撃ち殺す遺志がないのか、女性から数十メートル離れた干潟に銃弾を遊ぶように打ち込む。
(脅かして遊んでいる)
雪がそう思った時、女性は、近くの海水目掛けて飛び込んだ。
だが、水深が浅かったために、背中が出ていた。
(撃つ気がないのに、泥水に飛び込んだら、溺死するわ、早く起き上がって、岸に戻りなさい!)
雪は心の中で必死で叫んでいた。
その声が聞こえたわけではないが、女性は起き上がった。
だが、再び、飛び込むような姿勢をした。
すると、戦闘機は、正確に女性を狙って撃ったのか、女性は身体から真っ赤な血が飛び散った瞬間、女性の周りの泥と海水が跳ね上がり女性の姿を消した。
「キャー」
雪は思わず悲鳴を上げた。だが、急いで、その口を塞いだ。
その悲鳴で、鈴子が驚いて言った。