原爆と竹槍20話
先を急ぐ雪には、その景色を見て楽しむ時間はない
日が沈み始めたとき、雪は長崎県と佐賀県の境界線より少し長崎県と佐賀県の境界線より少し長崎県よりの小長井を走っていた。
暗くならない間に、今夜の宿を見つけなければならない。
しかし、泊まれるような橋が見つからない。
思案しながら走っていると、道から少し入った所に、山を切り取ったような崖があり、その下に小さな洞窟があった。
雪は、洞窟を一夜の宿と決め、洞窟の前に自転車を止め、落ち葉や枯れ枝を集め、飯盒で麦飯を炊いた。
やがて、ご飯が炊けた。
雪は、鈴子が食べやすいように、小さなおにぎりを作り、そのおにぎりに塩をまぶして、鈴子に食べさせた。
「もう、炊いた美味しいおにぎりは食べられないように、言ったけど、また、食べられるのね」
鈴子は、美味しそうに食べ始めた。
「ご飯が炊けない時は、どんな時」
「火が炊けない場所や、炊いた火が米軍機に見つかるときよ」
「どうして」
「米軍機は、地上の灯りを目掛けて爆弾を落とすからよ。爆弾を知っている」
「知らないわ」
「爆弾が落ちてくると、鈴子や母さんのようにな人間は粉々に壊れる死ぬのよ。家もよ。怖いでしょう」
「鈴子、死ぬのは嫌よ」
「だから、米軍機には絶対に見つからないようにしなければならないのよ」
その時、小さい音ながら、腹にずしんと響くような音がした。
その音を今まで聞いたことがない雪は、恐怖を感じ、音がした方を見ると、有明海の向こうの大牟田市方面の空が赤く染まっていた。
「何かしら?」
見た時はそれが何か分からなかった雪だったが、B二十九が飛ぶ音を聞き、町が空爆されたと知った。
だが、死傷者を眼にしない雪には、空襲の実感が分からないため、それほど、大きな衝撃を受けてなかった。
やがて、自転車を漕ぎ続けた疲れないのか、何時の間にか眠っていた。
しかし、その眠りを覚ましたのは、また、米軍機だった。
雪が眼を覚ました時は、はや夜は明け、間もなく太陽が有明海の向こうからから昇る時間になっていた。