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原爆と竹槍  作者: サイシ
19/93

原爆と竹槍19話

そこで、雪は、道の両側にある家や川、木々から、ヒマワリなどの花や、トマト、茄子などの野菜を記憶しながら走るために、時間の割に距離が少なかった。

 走っているうちに、ふと、老人が言った病気に気を付けなさい。と言ったことを思い出した。

(お弁当が腐るかも)

 そう気づいた雪は、昼食には早いが、自転車を公園の青々と茂った木の下に留めて、鈴子に言った。

「お昼ご飯を食べましょうね」

「うん」

「母さんの背中、苦しくなかった?」

「お餅のように柔らかくて、気持ち良かったわ」

「もし、苦しくなったら言いなさい。前の椅子にすわれるようにするからね」

 鈴子が心配げ顔で言った。

「母さんは重くないの」

「鈴子は小さくて軽いから平気よ。だから、食事と夜以外の鈴子は、毎日、私の背中だから、少し苦くても我慢してね」

「うん、お母さんの背中、大好きだから我慢するわ」

「聞き分けの良い子ね」

 雪は鈴子を抱きしめる。

「痛い!」

 鈴子を離した雪は、竹の皮で包んだ梅干し入りの麦おにぎりの匂いを確かめたが、まだ腐食は始まっていなかった。

「炊いた美味しいおにぎりは、これが最後になるかもしれないから、腹一杯に食べなさいね」

 戦争の真っただ中、米を作っている百姓でも、冠婚葬祭以外の日に、米の飯は食べられない、まして、米を作っていない町民は、何時も麦飯を食べていた。

 その麦飯も食べられず、稗の粥を食べていた者が多数いために、麦飯でも馳走といえるのだ。

 鈴子は、頷いて食べ始めた。

「美味しい?」

 雪が尋ねた。

「うん、美味しいね」

 食事といえども、今の雪親子が使える時間はない。

「さあ、出掛けるわよ」

 一刻も早く広島へ行きたいと心急ぐ雪には見えないが、右手に美しい有明海が見え隠れし始めた。

 長崎街道の中で、有明海に沿った道は、長崎街道の中で最も険しいが、それを補っても有り余るほどの風光明媚だと言われている。

 また、もし、この道を松尾芭蕉が通っていたら、どんな素晴らしい旬が生まれていただろうと、悔しがる人は少なくない。

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