原爆と竹槍17話
「岡本さんのお墓へ行きたいので、教えて頂けませんか」
老人が辛そうに言った。
「残念ですが、岡本さんの家族はみんな死にましたんで、墓は建てていません」
「墓も作れず、お参りする人も居ないんですね、お可哀想に」
言って、涙を流す雪だった。
何時までまでも悲しんでは居られない雪は老人に尋ねた。
「諫早へ行きたいのですが、道が分からないので教えてください」
老人は詳しく教えてくれた。
「色々と教えて頂いて、本当にありがとうございました」
「じゃあ、気をつけて行くんだよ」
老人と別れた雪は、諫早に向かった。
やがて、諫早に着いた雪は、早速、道を尋ねる人を探してても、目につくのは、小さな子供たちばかりだった。
これ以上、走ると大きく迷うと思った雪は、自転車を停め、辺りを見渡していると、道から少し入ったところの家から一人の老女が出てきた。
「今日は」
「はい、今日は」
老女が挨拶を返した。
「すみませんが、道を教えて頂けませんか」
「何処へ行きなさる?」
「有明海を右手に見ながら、佐賀市へ行きたいのです」
「佐賀市」
聞いた老女が家の中に向かって叫んだ。
すると、家の中から老人が出てきた。
「何かね」
「この人に、佐賀市へ行く道を尋ねられたけど、私は詳しく知らないので、教えられないのよ。あなたは、よく知っているでしょう。教えて上げてくださいな」
「分かった。ここから佐賀市へ迷わずに行けるのは長崎街道を通ればいいよ」
「あなた、この人は、有明海を右手に見ながらの道が知りたいそうよ」
老女も、長崎街道のことをよく知らないようだ。
「有明海に沿った道が長崎街道だよ。長崎街道の中でも、有明海に沿った道は、難所でもあるが、それを補っても余あるほど風光明媚だと言われているから、自転車を走らせながら、景色を楽しんだらいいよ」
「あなた、景色はいいから、道を教えて上げなさい」
妻に言われ、道を詳しく教えた。