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原爆と竹槍  作者: サイシ
15/93

原爆と竹槍15話

夫に言われた雪は、自転車を漕ぐ決心がつき、静かに走りだしたが、また、悲しくなったのか、明を振り返り、万感の思いを込めて叫んだ。

「あなた!あなた!」

だが、出てくる言葉は、あなた、しか出てこなかった。

「帰りを、ここで、待っているよ」

雪に勇気を与えるように、明は小鳥が囀る楠の木の下を指差して言った。

「絶対に、待っていてね!」

雪は、明の方を何度も後を振り返りながら、朝靄に包まれたような坂道を下り姿が見えなくなった。

「無事に帰ってこいよ!」

明は、涙で見えなくなった目で妻子に向かって叫んだ。

その声が雪に聞こえた訳ではないが、雪が後ろ髪ひかれる思いで後を振り返った。

しかし、その目に写ったのは、雛壇のような段々伏に建てられた家々と、緑も鮮やかに茂った木々だった。

(大好きな私の町へ、必ず、母さんを連れて帰ってくるわ)

強く決心した雪は、背中の鈴子に話掛けた。

「鈴子」

「なあに、母さん」

「父さんが見える」

 鈴子が後を振り返って言った。

「見えない。わたし、父さんの所へ帰りたい!」

 鈴子が泣き出した。

「じゃあ、父さんと一緒に居る」

 鈴子は考えた。

「少し前、母さんは、初め鈴子を家に残して畑は出掛けたら、母さんの所へ行きたいと言って、父さんを困らせたでしょう」

「うん」

「父さんは仕方なく、鈴子を畑まで連れてきたでしょう」

「淋しかったんだもの」

「わずか数時間でも、持っていられなのに、何日も父さんと一緒に待っていられる?」

「そんなこと、できない」

「だから、父さんは、母さんに鈴子を連れて行きなさいと言ったのよ。実の所、母さんだって、鈴子と一日も離れたくないから連れて来たのよ。それでも帰る?」

「もう、帰ると言わない」

「良かった、じゃあ、これから、お婆ちゃんを迎えに行くんだから、長くて辛い旅になるかもしれないけど、どんなに苦しくても我慢してね」


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