原爆と竹槍14話
鈴子を背負った雪が、自転車にのろうとしたとき、鈴子が言った。
「あの椅子に座りたい」
鈴子用に作った椅子を指差した。
「ごめんね。もう荷物を多くして椅子を使ったのよ。だから、私の背中で辛抱してね。明日か明後日には、荷物も少 しは少なくなるから、その時から乗せてあげる。だから、それまで、我慢するのよ。
「うん」
鈴子は素直に従った。
「少し待っていてくれ」
明が急いで防空壕に入ったが、すぐ、二本の竹を手に持って出てきた。
「その竹、何に使うの」
明は、包丁で一本の竹を槍に作って言った。
「恐がらす訳ではないが、万一、猪や山犬と遭遇するかもしれない。その時の護身用に竹槍、もう一本は疲れた時の杖、僕は一緒に行けないが、この二本の竹槍で雪と鈴子を陰ながら守り、助けたいんだ。だから、何時も、僕が竹となって、雪や鈴子と一緒に居ると思ってくれ」
「嬉しい」
雪は明に抱きついた。
「何時までもこうしていたい。だが、お義母さんの容態のこと思うとそうもならないから、早く行きなさい」
別れの辛さを隠し、明は二本の竹を自転車に縛り付けた。
「はい、寂しいけど、出掛けるわ」
雪の目から涙が溢れた。
前籠には自転車の修理道具、鈴子の椅子には、さつま芋、後の荷台には、麦や飯盒など旅に必要な物を積んであった。
鈴子を背負った雪は、自転車に乗り、自転車を漕ごうとしたが、また、涙で前が見えなくなり自転車が漕げない。
雪の涙を見た明は悲しみを堪えることが出来ず、また、雪と鈴子をひしと抱きしめた。
すると鈴子も別れを察したのか、
「これ上げる」
と言って、鈴子は持っていた、茹でたさつま芋を明に渡した。
「お芋ありがとう」
優しい鈴子に明は嬉しそうだった。
そして、我が子に二度と会えないような気がして、さつま芋を受け取った明の目に涙が光っていた。
「さあ、お義母さんを迎えに、行きなさい」